自動化設備を導入した工場では、「止まらないこと」が前提で生産が組まれています。しかし現実には、予期せぬ設備停止が起こることも珍しくありません。
このようなトラブルに備え、停止時のリスクを最小限に抑える仕組みと体制の整備は、工場運営の信頼性と安全性に直結する重要なテーマです。
本記事では、初心者でも理解できるよう、設備停止におけるリスクの種類、対策マニュアル作成のポイント、体制づくりまでを丁寧に解説します。
設備停止が引き起こす主なリスク
設備が突如停止すると、以下のようなリスクが発生します。
● 生産遅延と納期遅れ
出荷予定に間に合わないと、取引先の信頼を失うだけでなく、違約金や損害賠償の対象になることも。
● 品質不良の発生
停止直前・直後の製品には不具合が発生しやすく、再検査・再加工・廃棄のコストが発生。
● 作業員の安全リスク
予期せぬ動作停止や再起動により、挟まれ・巻き込まれ事故の危険が高まる。
● 二次停止の連鎖
1台の設備の停止が、前後工程の停止を引き起こす連鎖反応になることも。
停止時のリスクを減らす「マニュアル整備」のポイント
① 停止の種類ごとに対応を分ける
- 緊急停止(非常停止ボタン)
→ 人命や重大事故を防ぐための即時停止。対応は最も厳格に。 - 異常停止(センサーエラー・アラーム)
→ 条件を満たさずに自動停止。原因調査と対処が必要。 - 計画停止(点検・段取り替え)
→ リスクは少ないが、対応手順を標準化しておくと効率的。
② 「誰が・何を・いつ・どうするか」を明記
例:
- 誰が対応するか:オペレーター/保全担当者/ラインリーダー
- 何をするか:停止原因の確認・電源遮断・製品の仕分け
- どの順番で行うか:安全確認 → 設備状況確認 → 操作パネル確認 → ログ記録
- どのツールを使うか:異常履歴モニター/専用メンテナンスキー/点検表
③ 視覚的・直感的なマニュアルづくり
- フローチャートやチェックリスト形式
- 写真付き手順書(実物・画面のキャプチャを使用)
- 「○○のアラームが出たら、△△の順で対応」といった条件分岐付きの説明
④ 教育と訓練の定期実施
- 新人教育時に必ずマニュアルに沿った演習を行う
- 年1回以上のシミュレーショントレーニング(停止→対応→復旧)を推奨
リスクを抑える「体制整備」の要素
● 1. 異常通知の仕組みを整える
- アラーム表示だけでなく、音・光・メール・チャット通知を組み合わせる
- 重大アラームは保全担当者へ即通知される仕組みにする
● 2. 早期復旧に向けた予備部品の管理
- 消耗・故障頻度の高い部品は在庫を確保
- 交換手順書・対応ツールもセットで保管する
● 3. 復旧判断の権限ルール明確化
- 誰が再起動の判断をするかをあらかじめ決めておく
- 誤操作による2次トラブルを防ぐためにも重要な項目です
● 4. デジタル化による情報共有の迅速化
- スマホやタブレットで異常情報や履歴を即時共有
- 作業員が写真や動画で現場状況を共有できれば、遠隔支援も可能
実例紹介:自動車部品工場での取り組み
● 背景
- 加工機が週1回の頻度で停止
- 原因特定に時間がかかり、生産再開まで平均2時間
● 対策
- 停止時の原因を記録 → 月次で分析
- 対応手順書を操作パネル横に掲示
- LINE WORKSを使って写真で即共有
- 保全スタッフが週1で「復旧演習」を実施
● 効果
- 平均停止復旧時間が2時間 → 35分に短縮
- 間接損失(出荷遅延・ロス品)も70%以上削減
- 現場作業員の「対応に対する不安」が減少
まとめ
設備停止は、どんなに優れた自動化ラインでも完全には避けられません。重要なのは、「停止したときに何をするか」が明確であり、誰もが迷わず動ける体制を持っているかどうかです。
そのためには、マニュアル整備・体制づくり・教育訓練の3本柱が欠かせません。
リスクは、事前準備と対応スピードで大きく変わります。今日からでも取り組める内容から始めて、停止に強い、復旧が早い工場づくりを目指しましょう。