自動化ラインにおける生産ロス分析と改善のステップ

事例紹介

自動化ラインを導入すれば、すぐに生産性が劇的に向上する――そう考える方も多いかもしれません。しかし、実際には思ったより効果が出ない、自動化したのにロスが減らないというケースも少なくありません。

これは「自動化=万能」ではなく、自動化の運用や設計に潜むロスを見逃している可能性があるからです。

この記事では、自動化ラインにおける代表的な生産ロスの種類と、その分析方法、改善の具体的ステップを初心者の方にもわかりやすく解説します。


生産ロスとは?

「ロス」とは、本来得られるはずだった生産量や利益が、何らかの理由で失われている状態のことです。特に自動化ラインでは、人の作業と違い、ロボットや機械が常に一定で動くことを前提にしているため、わずかなロスが全体に大きく影響することがあります。


よくある生産ロスの種類

自動化ラインで発生する主なロスは以下の通りです。

● 1. 機械停止ロス

  • 故障や部品の詰まり、トラブルによる停止
  • 電源・通信系のトラブルで起動不可になるケースも

● 2. 段取り・切替ロス

  • 生産品目の切替時に発生する非稼働時間
  • 金型や治具の交換、セッティング調整などが該当

● 3. 微停止・空転ロス

  • 数秒〜数十秒の小さな停止
  • 部品供給待ちや信号のタイミングズレで発生

● 4. 能力ロス

  • 本来の速度で動いていない状態(設定値より遅い)
  • 操作員の制限やラインバランス不良が原因

● 5. 不良ロス

  • 不良品や修理品の発生により生産効率が低下

● 6. 立上げ・終了ロス

  • 日々の稼働前後に必要な準備や片付けの時間

ロス分析の基本:OEE(設備総合効率)を活用しよう

生産ロスを定量的に把握するには、OEE(Overall Equipment Effectiveness)の活用が有効です。OEEは以下の3つの指標から構成されます。

指標意味ロスとの関係
可動率稼働可能な時間に対する実稼働時間の割合停止ロスに影響
性能効率実稼働中の最大速度に対する実速度の割合微停止・能力ロスに影響
良品率良品の数に対する総生産数の割合不良ロスに影響

この3つを掛け算したものがOEEの値(%)で、理想的には85%以上が目標値とされます。


改善のステップ

① ロスの見える化

まずは、どこで、どのようなロスが起きているかを可視化することが第一歩です。

  • センサーやPLCのログを記録
  • 日報や作業者からのヒアリング
  • シンプルなロス記録表でもOK

ツールがなくても、ホワイトボードで「今週の停止時間ランキング」などを貼り出すだけでも意識は変わります。


② 優先順位を決める

「どのロスを改善すべきか」は、損失時間×頻度×影響度で優先度をつけましょう。

例:

  • 1回の停止で30分ロスが出るトラブルが週に3回発生 → 90分/週の損失
  • 微停止が1回5秒で日に300回発生 → 25分/日、125分/週の損失

このように、小さなロスでも回数が多いと大きな影響になります。


③ 現場での仮説と検証

実際の改善活動は、現場の作業者と一緒に行うのが効果的です。

  • 「なぜこのトラブルが起きたのか?」を5回繰り返す(5 Why分析)
  • 対策後に同じロスが発生していないか、1週間程度の再検証期間を設ける

④ 継続的な改善文化の定着

一度の改善で終わらず、改善 → 定着 → 新たな課題発見 → 改善というサイクルを回すことで、ラインは常に最適化されていきます。


改善事例:機械停止ロスの削減(某金属加工工場)

● 状況

  • 加工ラインのロボットアームが、月平均で15回の異常停止
  • 主因はセンサーの誤検知による「安全停止」

● 対策

  • センサーの取り付け角度を変更+感度調整
  • 誤検知が起きたときに再起動可能な「自動復帰プログラム」を追加

● 結果

  • 異常停止回数:月15回 → 月2回へ
  • 月間生産時間:+10時間改善
  • 操作員の手動介入時間も半減し、負荷が軽減

自動化ラインだからこそ求められる“運用の質”

自動化ラインは「止まらず、正確に、同じことを繰り返す」ことが強みですが、裏を返せば設計ミスや運用のムラが、ロスとして顕著に現れるという側面もあります。

だからこそ、ロスの見える化・分析・改善のサイクルが重要になります。

人的作業では“カバーできてしまっていた”小さなロスも、ロボットには見逃されません。そうした隠れたロスを掘り起こすことが、自動化の真価を引き出すカギです。


まとめ

自動化ラインを導入したら終わりではなく、導入後こそ“ロスを見つけ、改善する”活動が重要になります。

特に、OEEのような指標を活用しながら、生産ロスを客観的に把握・分析・改善する仕組みを作ることで、自動化の効果を最大化できます。

どんなに高性能なロボットや装置でも、「正しい運用」と「継続的な改善」がなければ、その力を十分に発揮できません。だからこそ、現場に根差したロス分析と改善を始めてみましょう。
それが、真に生産性の高いスマート工場への第一歩です。

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