自動化設備への投資は、製造業にとって大きな決断です。
しかし、1つの製品や工程にしか使えない専用設備では、将来使わなくなった瞬間に“死蔵コスト”と化してしまいます。
そこで注目されているのが、「流用可能性」を前提とした自動化投資の考え方です。
変化の激しい時代だからこそ、“動かせる・組み替えられる・再利用できる”設備設計が求められています。
流用前提の自動化設備とは?
流用とは、もともと別の用途や工程で使用していた設備を、新たな製品や目的に応じて再活用することを指します。
具体的には、
- 製品仕様が変わっても使用できるロボットハンド
- 工程順序が変わっても組み替え可能な搬送ライン
- ソフト切替で複数製品に対応する検査ユニット
このような設備は、“一品専用”ではなく、“汎用性”と“再構成性”が高いことが特徴です。
なぜ今、流用設計が重要なのか?
製品ライフサイクルの短命化
近年では、製品の市場寿命が1〜3年と短くなっており、一度設計した設備がすぐに不要になるリスクがあります。
多品種少量生産の加速
複数の品種を同じラインで切り替えて生産することが増え、切替可能・変更可能な設備が求められています。
投資回収のハードルが上がっている
環境変化や金利上昇により、設備投資のROI(投資回収率)が厳しく見られるようになっています。
流用性を高める設計ポイント
フレキシブルロボットの採用
多関節ロボットや協働ロボットを導入することで、ソフトウェアと簡易ハンド交換で他製品にも対応可能です。
- ねじ締め、ピッキング、溶接などに流用しやすい
- モーションはレシピ登録方式で切替可能
モジュール構成による再配置
ライン全体を“固定”せず、モジュール単位で移設・差し替えできる構成にすることで流用性が高まります。
- ユニット間をAGVや標準コンベアで接続
- 工程の順序変更や一部削除も容易に
汎用インターフェースの活用
電源・信号・通信ポートを標準化することで、異なる設備間でも接続しやすくなり、再構成の自由度が広がります。
- 通信はEthernet/IPやPROFINETなど標準規格を採用
- エア・電源はコネクタ化で簡単接続
実例:プラスチック成形メーカーの再活用戦略
あるメーカーでは、2年前に導入した専用検査機を使わなくなった後、ライン変更に伴って次のように流用しました。
- 検査装置のカメラと照明を再設定し、新製品用検査に転用
- ハンド部は新製品形状に合わせて3Dプリンタで再作成
- PLC制御プログラムを新たに書き換え、別工程と接続
結果として、新品設備を導入するよりも約65%のコストで新ラインに対応することができました。
導入時のチェックリスト
- 設備は将来の品種や工程変更に対応できる設計か?
- 制御は再プログラム・切替がしやすい構成か?
- 担当者以外にも操作・設定が分かるように記録されているか?
- 現場で“再利用可能”という意識が共有されているか?
社内ルールとしての“流用設計”
現場ごと・部署ごとに設備を導入すると、バラバラな仕様で流用困難になりがちです。
- 設備導入の際に「流用可能性評価」を必須とする
- 設備図面・PLCソースなどを社内共有サーバーに保管
- “流用事例集”を作成して他部署でも再利用を促進
このように、企業全体で“使い回せる設備文化”を育てていくことが、中長期的なコスト最適化につながります。
まとめ:投資は「一度きり」で終わらせない
自動化設備は、導入したときだけ価値があるのではなく、「何度も使い回せること」で資産としての価値を高められます。
- 多品種に対応できるフレキシブル設計
- ライン変更に耐えられるモジュール構成
- 社内で“流用前提”の思想を徹底する
変化に強い工場を目指すなら、“一度使って終わり”の自動化は卒業しましょう。