地震、台風、洪水、停電──近年、自然災害の頻度と規模が増す中、製造業における災害リスクへの備えは、事業継続の観点からますます重要になっています。従来は「人が対応すること」を前提にした体制が一般的でしたが、近年は自動化技術を活用して“止まらない工場”を実現する取り組みが進んでいます。
この記事では、災害に強い=レジリエンスのある工場づくりを目指し、どのように自動化技術を組み込むことで災害への備えを強化できるのか、初心者にもわかりやすく解説します。
レジリエンス設計とは?
工場におけるレジリエンスの定義
レジリエンスとは、「外的ショック(災害など)を受けても素早く回復し、機能を維持できる力」のことです。つまり、止まらない/止まってもすぐ再開できる工場体制を指します。
具体的に何を目指すか
- 被害を最小限に抑える構造
- 重要機器の優先復旧設計
- 非常時でも最低限の生産・連絡が可能
- 復旧に向けた情報共有と自律的判断
これらを「自動化システムと連動して設計すること」が、今の時代のレジリエンス強化の鍵となります。
自動化が貢献するレジリエンスの3つの柱
リアルタイム監視による初期対応強化
災害の予兆や発生時に、センサーやIoT機器がリアルタイムで異常を検知・通報できることで、人の目が届かない場所でも迅速な対応が可能です。
例:
- 地震感知センサーが自動で機械を緊急停止
- 異常温度や漏水をAIカメラが検出
- 遠隔からの操作で設備停止/遮断を実行
非常時の自律運転モードの実装
生産設備に「災害時専用モード」をあらかじめ設定しておくことで、以下のような動作が自動化できます。
- エネルギー消費を最小限に抑える待機運転
- 必要最小限のラインのみを稼働
- 在庫補充・出荷作業を優先して継続
このように、人が不在でも安全かつ限定的に運用を続けられる体制を整えることができます。
自動復旧支援とシステム冗長化
障害発生時に、自動的にバックアップ制御盤や代替ラインに切り替える冗長構成を取ることで、復旧までの時間を短縮できます。
また、PLCやMES(製造実行システム)にログデータを蓄積しておくことで、復旧時のトラブル原因の特定もスムーズに行えます。
レジリエンスを考慮した自動化設計の具体例
ケース①:洪水対策としての「上階シフトライン」
浸水リスクのある地域では、主要制御装置や重要ラインを高層階に設置。自動搬送機器(AGV)と連動して、通常は1階で行っている工程を災害時には自動で上階へ切り替える設計が可能です。
ケース②:停電対応のUPS+太陽光自動切り替え
電源喪失に備えて、UPS(無停電電源装置)と太陽光発電+蓄電池を組み合わせる事例も増えています。特に、IoTゲートウェイや制御基盤だけでも「止めない電源設計」を実現することで、緊急時のデータ喪失を防ぎます。
ケース③:AIによる物流停止リスクの自動判断
災害発生の予兆(地震速報・台風進路など)をAIで解析し、物流部門に対して出荷前倒しやルート変更を通知。生産ラインもそれに応じて自主的に仕掛品の生産量を調整する機能が試験導入されています。
災害後の“見える化”で復旧を早める
被災後の工場では、どの機器が正常で、どこに問題があるのかを素早く判断することが重要です。
そこで自動化された設備から収集したデータを活用し、以下のような「被災状況の見える化ダッシュボード」が役立ちます。
- 機器ごとの稼働状態/停止時間
- 異常発生場所のリアルタイムマップ表示
- センサーが検出した温度・水位・振動ログ
- バックアップデータからの設定復元状況
これにより、復旧の優先順位付けが明確になり、復旧作業を迅速に進めることが可能になります。
導入のステップと留意点
ステップ | 内容 |
---|---|
① 現状分析 | 地域の自然災害リスク、工場の脆弱ポイントを洗い出す |
② 設計方針の決定 | どの設備を止めないのか、何を自動で制御するのかを明確化 |
③ 技術選定と試験導入 | センサー、UPS、通信環境、AIツールなどの実機テストを実施 |
④ 社内教育とマニュアル整備 | 非常時モードの操作や、復旧手順の訓練を含む |
注意点:
- すべてを自動化せず「人による判断」との役割分担も必要
- 通信網の遮断に備えて「ローカル動作」が可能な構成が望ましい
- レジリエンス対策は「一度導入して終わり」ではなく定期的な訓練と見直しが重要
今後の展望
今後は、AIやクラウド、5Gといった高度なIT技術と自動化技術の融合により、災害対応型スマートファクトリーが実現に近づいています。
また、“BCP(事業継続計画)+スマート化”のセットで自動化を再設計する企業が増加しており、今後は工場設計の初期段階からレジリエンスを前提にした自動化がスタンダードとなるでしょう。
まとめ
自然災害はいつ起きてもおかしくありません。だからこそ、止まらない工場=レジリエンスの高い自動化設計が求められています。
センサー、AI、IoT、UPS、リモート制御といった技術を活用することで、異常の早期検知、被害の最小化、そして早期復旧が可能になります。
自動化は、生産効率だけでなく、企業の危機管理力と信頼性を高める手段としても非常に有効です。これを機に、ぜひ自社の工場のレジリエンス強化を見直してみてはいかがでしょうか。