近年、気候変動の影響により、夏場の気温上昇が年々深刻化しています。
屋内でも40度近い温度になる工場も少なくなく、製造現場では「熱中症」が重大なリスクとして注目されています。特に人手不足が進む中、現場で作業を担う従業員の安全と生産性をどう両立させるかが課題となっています。
その対策のひとつとして注目されているのが、「自動搬送システム(AGVやAMR)」の活用です。
本記事では、熱中症対策の基本を押さえつつ、自動搬送がどのように従業員の負担軽減と安全性向上に貢献するのか、初心者向けに分かりやすく解説します。
製造現場における熱中症のリスク
熱中症が発生しやすい状況
- 天井が高く、冷房の効きにくい工場内
- 溶接・鋳造など高温機器が多い現場
- 風通しが悪く、湿度が高い作業空間
- 重いものを持ち運ぶ肉体労働が多い工程
これらの条件が重なると、体温の上昇と脱水が進みやすくなり、意識障害や搬送が必要な重症例に発展することもあります。
基本的な熱中症対策
環境改善
- 大型送風機・スポットエアコンの導入
- 遮熱塗装や屋根断熱材の設置
- 作業スペースの温湿度モニタリング(IoTセンサー活用)
作業管理
- 作業時間の短縮、休憩の徹底(WBGT値で管理)
- こまめな水分・塩分補給の指導
- 高齢者や新人などへの配慮と巡回確認
個人対策
- 空調服や冷却ベストの導入
- 体調チェックアプリでの日々の記録
- 自覚症状が出たらすぐに申告できる職場文化の形成
これらの対策は非常に重要ですが、同時に「そもそも高温環境での重労働を減らす」ことが根本的な改善策にもなります。
自動搬送の導入がもたらす熱中症対策効果
人手による重量物搬送の削減
製造現場では、原材料や半製品、完成品の搬送に人の力が必要とされる場面が多くあります。しかし、炎天下や空調の効かない空間で数十kgの荷物を運ぶことは、非常に危険な作業です。
自動搬送ロボット(AGV:無人搬送車やAMR:自律走行ロボット)を導入することで、人が高温環境で長距離・長時間の運搬作業を行う必要がなくなります。
休憩時間の確保と省人化の両立
「人が運ぶ必要のある作業」を自動化すれば、その分人員に余裕が生まれます。これにより、熱中症対策として必要なこまめな休憩や作業交代がしやすくなります。
また、シフトを減らさずにピーク時の生産量を維持できるため、生産性と安全性のバランスを取ることが可能です。
高温エリアへの立ち入りを減らす
炉前・乾燥室・焼成工程など、明らかに高温なエリアでは、人が近づかずに済むように自動搬送を組み合わせる設計が有効です。
「ロボットが高温エリアに搬送し、人は快適な空間で制御や検査を担当」といった作業分担により、危険な作業環境への常駐を避けることができます。
実際の導入事例
事例①:金属加工工場でのAMR活用
夏場の工場内が40℃近くになる某金属加工会社では、材料の供給と製品搬出のすべてをAMRに任せることで、現場作業員の移動距離を80%削減。
その結果、熱中症発生件数は前年の4件から0件に減少しました。
事例②:食品工場での無人搬送化
食品の包装ラインと出荷ヤードの間が長く、かつ冷房の効きづらい工場では、AGVを使ってトレイを無人搬送化。
人は冷房が効いたエリアで作業できるようになり、体調不良者が出る頻度が激減したと報告されています。
自動搬送システム導入のポイント
項目 | 内容 |
---|---|
搬送経路の確保 | 通路幅・障害物・勾配を確認し、最適な走行ルートを設計する |
自動化する範囲の選定 | 全てを無人化するのではなく、人の負担が大きい工程を優先的に対象にする |
充電・保守の仕組み構築 | 炎天下で止まらないように自動充電ドックの設置や監視システムとの連携も重要 |
現場従業員との連携 | 導入時は混乱を防ぐために、現場と一緒にルールを作り、段階的に運用開始 |
今後の展望
将来的には、温湿度・バイタル情報をリアルタイムに取得し、AIが「作業停止」や「搬送ルート変更」などを自動判断するシステムも実現に近づいています。
また、空調機能を備えたAGVや、自動で冷却材を配布するロボットといった“熱中症対策特化型の搬送機器”の開発も進行中です。
まとめ
熱中症は、「現場で働く人の命に関わる問題」であると同時に、「企業の持続的な生産性」にも大きく影響する課題です。
自動搬送システムは、人手による重労働や高温エリアでの作業を減らし、現場の安全性と効率性を同時に高める有効な手段です。
これからの製造現場では、「安全な職場環境を整備すること」と「自動化による作業負荷の分散」は、セットで考えていくべきテーマです。暑さに強い工場づくりを目指して、自動搬送の導入を検討してみてはいかがでしょうか。