医療機器製造業におけるクリーン自動化のポイント

事例紹介

医療機器は、人の命に直接関わる製品です。その製造現場には、極めて高い品質・安全性・清浄度が求められます。近年、こうした高水準を維持しつつ、生産性を向上させる手段として注目されているのが「クリーン自動化」です。

クリーン自動化とは、クリーンルーム環境下で使用できる自動化装置やロボットを導入し、無人化や作業標準化を図る取り組みです。

この記事では、医療機器製造におけるクリーン自動化の基本概念、導入時の注意点、現場の工夫などを、初心者向けにわかりやすく解説します。


医療機器製造に求められるクリーン環境とは?

医療機器には、注射器、人工関節、心臓ペースメーカー、内視鏡など様々な種類があり、無菌・無塵状態が求められる製品も多く存在します。

● クリーンルームの基準(ISO 14644-1)

  • クラス1~クラス9に分類され、クラスが小さいほど清浄度が高い
  • 医療機器の組立・包装では、クラス7~クラス8程度が一般的

このクリーン環境を保ちながら、人の出入りや作業による微粒子の発生を最小限に抑えるために、自動化が有効なのです。


医療機器製造における自動化のメリット

項目自動化による効果
異物混入リスクの低減人の動作や衣服から発生する微粒子を抑制
作業標準化作業者のスキル差を排除し、品質の安定化が可能
無菌性の維持密閉構造・減圧機構を用いることでクリーン環境を維持
記録の自動化GMPやISO13485対応のためのトレーサビリティ確保がしやすい
人件費の抑制クリーンルーム内に配置する作業者を減らせる

クリーン自動化で使われる主な技術

■ 1. クリーンロボット

  • クリーンルーム対応の塗装・構造を持ち、発塵性のないモーターや駆動部を使用
  • 表面が滑らかで、清掃・消毒が容易
  • HEPAフィルターを内蔵するタイプもあり、自己排気を浄化可能

■ 2. 自動搬送システム(AGV/AMR)

  • クリーンゾーンに対応した無人搬送車
  • ゴミ・油分の出にくい設計で、台車やトレーを自動搬送
  • 無人化により、人の動線を削減しクリーン度を安定維持

■ 3. カメラ・センサーによる自動検査

  • 微細なキズ・異物・寸法不良を高精度カメラとAI画像処理で検知
  • 人の目では気づきにくい不良も、24時間体制でチェック可能

■ 4. クリーンパッケージング自動化

  • バリアフィルムを自動で開封・挿入・溶着する設備
  • 真空環境で行う包装機構により、無菌性を維持したまま密封可能

現場導入事例:注射器の組立工程

ある医療機器メーカーでは、注射器のシリンジ・ピストンの組立、検査、包装までをクリーン自動化しています。

● 導入のポイント

  • 組立工程はクリーンロボットが1本ずつ挿入と押し込み
  • 検査工程はカメラと照明を組み合わせて異物とエア混入を自動検出
  • 完成品は包装ラインで真空状態の滅菌袋に封入・ラベル貼付まで自動化

● 成果

指標改善前改善後
不良率1.8%0.2%
作業員数12名4名
日産数約5,000本約7,500本
異物クレーム件数年間20件年間1件未満

クリーン自動化導入時の注意点

● ロボットや装置の“清浄設計”

  • ケーブル露出を最小限に
  • パーツ接合部の隙間や段差を減らす(異物の溜まりを防止)
  • アルコールや過酸化水素への耐性素材を選ぶ

● 洗浄・滅菌工程との整合

  • 装置自体が洗浄可能であること(WIP:Wash in Place対応)
  • 装置の素材が高温殺菌やUV照射に耐えられること

● 記録とトレーサビリティ対応

  • 作業ログ・検査データを自動記録し、電子帳簿(ER/ES)対応が必要
  • 認証機関の審査に耐えられるシステム設計を行う

今後の展望

医療機器製造におけるクリーン自動化は、今後以下のような技術と融合が進むと見られています:

技術可能性
AIによる自動品質判断熟練工の“目利き”を学習し、画像・音・振動で不良予測
遠隔モニタリングと自動制御クリーンルーム外から状態を把握し、操作・保守が可能に
デジタルツインとの連携仮想空間でシミュレーションし、ライン設計や変更を効率化
ロボットの自己診断機能故障予兆を把握して、計画保全へ活用

まとめ

医療機器製造では、「清浄度」「品質」「安全性」の3つが絶対条件です。その条件を満たしながら生産性を向上させる手段として、「クリーン自動化」は非常に有効な選択肢となります。

導入には専門的な知識や環境整備が必要ですが、人の作業を助けるパートナーとしてロボットを活用することで、無理なく品質と効率を両立できます。

“人に優しい医療機器”を届けるために、清潔で確実な製造ラインの実現は欠かせません。クリーン自動化は、その実現を支える重要な鍵となるのです。

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