スマートフォンやパソコン、自動車など、あらゆる電子機器に搭載されている半導体。その製造現場では、“0.1秒のズレ”が製品不良に直結するほど、精密な制御が求められます。
特に、露光・エッチング・洗浄・搬送といった各工程では、温度や圧力だけでなく「タイミング」も製品品質に直結する重要な要素です。
そこで今回は、「0.1秒単位のタイミング制御自動化」に焦点をあて、その必要性と制御の仕組み、現場での活用例について初心者にもわかりやすく解説します。
なぜ“0.1秒”が重要なのか?
半導体製造では、以下のような工程が高速・高精度で連続しています:
- 露光装置のシャッター開閉
- 薬液の吐出と乾燥の切り替え
- ウェハーの搬送と位置決め
これらはすべて“タイミング”で同期されており、たとえ0.1秒の遅れがあっても、
- 回路パターンのズレ
- 薬品の塗布ムラ
- イオン照射の不均一化
など、ナノレベルの不良につながってしまいます。
そのため、“人の感覚”では対応できない速度と精度で動作するタイミング制御の自動化が不可欠なのです。
タイミング制御の基本構成
タイミング制御とは、複数の機器や動作を「ある時点で」「一定間隔で」「同期させて」動かすことです。
以下のような制御システムがよく使われます。
① PLC+高速タイマーユニット
- PLC(シーケンサ)に高分解能のタイマーユニットを組み合わせ、0.1秒どころか1ms単位で制御
- 光電センサーなどからの信号をトリガーに、即時でアクションを実行
② モーションコントローラ(Motion Controller)
- サーボモーターの回転角と速度を制御
- カメラやセンサーと同期して搬送・切り替えなどを“同時制御”
③ 時間制御信号の外部同期(トリガー制御)
- 各装置間でクロック信号やI/O信号を共有し、タイミングを合わせる
- 例:露光装置がシャッターを開けるタイミングに合わせて薬液噴射を制御
活用事例①:ウェハー搬送の位置決めと照射同期
ある半導体メーカーでは、ウェハーの搬送位置が0.5mmずれるだけで、露光精度に影響が出るという課題を抱えていました。
そこで導入されたのが、
- 光学センサーとモーションコントローラによる“1ms以下”の搬送位置補正
- シャッター制御と照射タイミングを完全同期させるトリガー制御
その結果、パターン位置のズレがほぼゼロとなり、製品歩留まりが15%向上しました。
活用事例②:薬液の吐出と乾燥のタイミング制御
別の工場では、ウェット工程において「薬液吐出→一定時間放置→乾燥」の順序が重要でした。
このタイミングが狂うと、薬液反応が不十分になり、エッチング不足や粒子残留が発生します。
ここでは、
- 吐出タイミングをPLCで制御し、秒単位でログ取得
- カメラで表面状態を確認し、AIで乾燥開始の最適タイミングを判断
- タクトタイムと温度変化に応じて自動で制御パラメータを調整
といった“データと制御の融合”によって、ミスをゼロに近づけています。
タイミング制御導入のポイント
高精度なタイミング制御を導入する際には、次の点を押さえることが重要です。
- 通信遅延の少ない制御機器(EtherCATやMECHATROLINKなど)を採用
- センサーやカメラとリアルタイムで連動できる構成
- 制御ロジックのシミュレーションとログ確認ができる仕組みを準備
つまり、“正しく動かす”だけでなく、“いつ・どこで・なぜ遅れたか”を可視化・改善できる体制をつくることが重要なのです。
まとめ:0.1秒の自動化が、1ナノの品質を生む
半導体業界では、「精密」であることが最優先されます。
その実現には、人の感覚では対応できないスピードと正確さを、機械と制御が補完し合う仕組みが不可欠です。
“0.1秒”という一見わずかな差が、
“回路のずれ”や“不良率の上昇”という大きなロスにつながる現場だからこそ、タイミング制御の自動化は最優先で取り組むべき課題と言えるでしょう。
まずは一つの工程から、タイミングの見える化と自動化を始めてみてください。