製造業において「早く・安く・正確に」製品や設備を開発するためのキーワードとして、近年注目されているのがバーチャルエンジニアリング（Virtual Engineering）です。
これは、製品や生産設備の開発・設計・検証を現実世界に構築する前に仮想空間上で行う手法で、従来の試作・評価・修正というサイクルを大きく変える可能性を秘めています。
本記事では、バーチャルエンジニアリングとは何か、どのように自動化開発に活用されているのか、初心者の方にも分かりやすく解説します。
バーチャルエンジニアリングとは？
定義と目的
バーチャルエンジニアリングとは、3D CAD、シミュレーション、VR/AR技術などを用いて、設計・開発・評価を仮想空間で行うエンジニアリング手法です。
設計変更や検証がリアルタイムかつ非破壊で行えるため、コスト削減・開発スピードの向上・品質の事前担保といった多くの利点があります。
どこが「従来の開発」と違うのか？
| 項目 | 従来の開発 | バーチャルエンジニアリング |
|---|---|---|
| 試作 | 実物を製作 | 仮想空間で3Dシミュレーション |
| 設計変更 | 試作後に手作業で修正 | モデル上で即座に修正・再検証 |
| リスク検証 | テスト機や実機で行う | 事故や干渉などを仮想空間で事前に予測 |
| コスト | 材料費・工数が多い | シミュレーション主体でコスト削減 |
| 所要期間 | 長期 | 短縮可能 |
バーチャルエンジニアリングと自動化の関係
自動化設備やラインを開発する際にも、仮想環境での検証・最適化は非常に重要です。実際に組み上げてからミスや干渉が発覚すると、莫大なコストと時間が発生します。
そこでバーチャルエンジニアリングを活用することで、以下のような課題を未然に防げます。
活用シーン
- 搬送ラインの動作確認（ロボットの干渉、搬送遅延の有無）
- レイアウト最適化（作業者とロボットの安全距離確保）
- サイクルタイム分析（工程間のボトルネック特定）
- 装置導入前の社内プレゼン・教育用デモ
使われている主な技術要素
| 技術 | 内容 |
|---|---|
| 3D CAD（Computer Aided Design） | 設備や部品を三次元で設計 |
| CAE（Computer Aided Engineering） | 応力、熱、流体などの物理シミュレーション |
| デジタルツイン | 現実の設備と連動する仮想コピー |
| VR（仮想現実）/AR（拡張現実） | 実寸大の設備を仮想空間で体感・確認 |
| PLCシミュレーション | 制御ロジックの仮想実行・検証 |
導入のメリット
試作回数の削減でコストを抑制
実物を作る前に仮想環境で複数のパターンを検証可能。材料費や加工費を最小限にできます。
トラブルの“予防保全”が可能に
構成部品の干渉や可動範囲の超過など、現場で起きやすいミスを事前にチェックできます。
多拠点・多部門での設計共有が容易
仮想モデルはクラウドやネットワークを介して共有可能。海外工場や外部パートナーとの共同設計もスムーズです。
人材教育・作業トレーニングにも活用
VRやARを活用し、実機がない段階でも作業者に操作感覚を体験させることが可能です。
実際の導入事例
自動車部品メーカーの生産ライン設計
- 新規ロボット導入にあたり、3D CADとVRで干渉・作業範囲・搬送距離を事前検証
- シミュレーション結果をもとにPLC制御プログラムも仮想動作確認
- 実機搬入後のトラブルはゼロ、立ち上げ期間を半分以下に短縮
導入時のステップと注意点
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 対象設備・工程の洗い出し | バーチャル化する範囲を明確にする |
| 2. 3Dモデルの作成 | 設備メーカーと協力して構造データを整備 |
| 3. シミュレーション環境の構築 | CAD/CAEソフト、VRシステムなどを導入 |
| 4. 検証・分析・改善 | 物理動作やロジックを確認し、改善案を反映 |
| 5. 社内活用とスケーリング | 教育や運用に展開し、他設備にも応用拡大 |
注意点
- ソフトウェアや機材の初期導入コスト
- 3D設計・シミュレーションの専門スキルが必要
- 設備メーカーとのデータ連携体制の構築がカギ
今後の展望
バーチャルエンジニアリングは今後、AIやIoTと連携し、「自己最適化する自動化設備」の実現へと進化していきます。
たとえば、AIがCAD設計を支援し、過去の不具合履歴から自動レイアウト変更を提案したり、リアルタイムで稼働状況を反映した3Dモデルで運用を最適化するなど、さらなる進化が期待されています。
まとめ
バーチャルエンジニアリングは、自動化設備の設計・導入・運用において“失敗しないものづくり”を実現するための強力なツールです。
仮想空間上であらゆる検証・最適化を事前に行えることで、時間・コスト・品質・安全性のすべてを向上させる可能性を秘めています。
まずは、小さなプロジェクトから仮想設計・シミュレーションを取り入れ、自社のものづくりにおける新たな“標準化”を目指してみてはいかがでしょうか。
