製造現場では、設備が1分でも止まれば、生産計画に大きな影響を与えます。
とくに量産ラインや連続工程を有する業種では、たった数時間の停止が数百万円〜数千万円の損失につながることもあります。
この記事では、工場の稼働停止によって発生するコストの実態と、それを未然に防ぐ「予防型自動化」の費用対効果について、初心者の方にもわかりやすく解説します。
稼働停止によって生じる“5つの見えにくい損失”
設備トラブルや人的ミスによってラインが停止したとき、影響は単なる「生産ストップ」だけではありません。
① 生産ロス
- その間の製品が作れず、納期遅延のリスクが発生
- 生産予定がずれ込むことで、他工程や他ラインにも影響が波及
② 従業員の待機時間
- 作業員が作業できず“遊休”状態に
- 応急対応に複数名が取られ、他業務が滞る
③ 不良・仕掛品の発生
- 突発停止時に“途中で止まった製品”が不良化
- 手戻りや廃棄につながることも
④ 顧客からの信用損失
- 納期遅れ、品質トラブルが継続すると、顧客評価が低下
- 重大な場合は取引停止の要因にも
⑤ 設備修理・外注コスト
- 突発修理に高額な費用が発生
- 急な部品調達・技術者手配が必要になるケースも多い
このように、“1回の停止”が複数の部門に影響を与え、見えにくいコストが累積していくのが実態です。
予防型自動化とは何か?
予防型自動化とは、単に人手を機械に置き換えるのではなく、「トラブルが起きないようにする」ための仕組み作りを目的とした自動化設計のことです。
例:
- 摩耗部品の寿命予測を自動化(センサー×AI)
- 異音・振動を常時モニタリングし、故障兆候を事前検出
- 異常信号を遠隔通知し、迅速な初動を可能にする
- 作業者の操作ミスを防ぐUI設計・インターロック制御
いずれも「止まる前に気づく」「止める前に手を打つ」ことを目的としています。
投資対効果(ROI)はどう考える?
予防型自動化に対して、「そこまで費用をかける必要があるのか?」という声があるのも事実です。
しかし、実際には突発停止1件の損失額が予想以上に大きいケースが多く、むしろ安価な保険といえる側面もあります。
事例:1時間停止で600万円の損失
ある自動車部品工場では、検査工程のカメラ故障により全ラインが1.5時間停止。
このときの損失内訳は以下の通りです。
- 未生産ロットによる納期遅れ損失:300万円
- ライン作業員の待機損:120万円
- 緊急対応費(技術者・代替部品):100万円
- 仕掛品の不良化・廃棄費:80万円
この事例を受けて、同社は検査装置の二重化(冗長構成)とカメラの稼働監視センサー導入を行い、停止リスクを大幅に軽減しました。
“予防型”投資の判断基準は?
全ての設備を監視・自動化すればコストがかかりすぎてしまいます。
そのためには、以下の基準で優先順位を決めるのがポイントです。
- ボトルネック工程:停止=全体停止となる工程は最優先
- 高額な設備:修理費用・停止損失が大きい装置
- 高頻度トラブル:過去に停止が繰り返された装置
- 外部要因の影響が大きい箇所:温度・湿度・振動など
また、1件の停止=いくら損失が出るかを数値で試算しておくと、費用対効果の説明にも説得力が増します。
まとめ:「止めない設計」は、利益を守る設計
自動化と聞くと「人手を減らす装置」というイメージが先行しがちです。
しかし、実際には「止まらない工場をつくる仕組み」としての側面こそが、経営にとっての最大の価値です。
突発停止の損失は、想像以上に広範囲かつ高額です。
だからこそ、“予防型”という視点での自動化投資が、結果として最も費用対効果の高い選択になることも珍しくありません。
まずは、自社の止まるリスクのある工程を棚卸しし、1つでも“未然に防ぐ自動化”を取り入れるところから始めてみてください。