人手不足対策としての“選択的自動化”導入の考え方

事例紹介

近年、製造業における人手不足は深刻化しています。しかし、すべてをフルオートメーション化するには莫大なコストと時間がかかる上、かえって柔軟性を失う恐れもあります。

そこで注目されているのが、「選択的自動化(Selective Automation)」という考え方です。

本記事では、選択的自動化の基本と導入の進め方を初心者向けに解説します。

選択的自動化とは?

選択的自動化とは、人手作業の中で“負担が大きい”“人材確保が難しい”“品質がばらつきやすい”といった工程に絞って、部分的に自動化を進める方法です。

すべての作業をロボットに置き換えるのではなく、人と機械の役割分担を最適化するという発想です。

たとえば、次のような工程がよく自動化の対象になります:

  • 重量物の搬送・仕分け作業
  • 繰り返しが多い単純検査
  • 高温・危険区域での作業
  • 正確性が求められるねじ締め、溶接など

なぜ“選択的”が重要なのか?

人手不足への対応=自動化、という発想はシンプルですが、実際には以下のような落とし穴があります。

  • 初期投資が高く、全体導入には時間がかかる
  • 不確実な工程や変種変量に対応しづらい
  • 現場作業者のモチベーション低下

選択的自動化であれば、現場の課題に合わせてピンポイントで導入できるため、コストパフォーマンスに優れ、効果を早期に実感しやすいというメリットがあります。

導入のステップ:どこから自動化すべきか?

導入時は、次のようなステップを踏むとスムーズです。

  1. 工程の可視化
     作業フローを洗い出し、「時間がかかっている工程」「人が集まりにくい工程」を特定します。
  2. 定量的な負荷評価
     タクトタイム、作業者の移動距離、エラー率などから、改善インパクトの大きい工程を選びます。
  3. 技術・設備の調査
     既存の自動化装置・ロボットで代替可能か、カスタムが必要かを確認します。
  4. PoC(試験導入)から開始
     いきなり本番導入せず、テスト導入で効果と課題を検証するのが鉄則です。

実例:食品工場での選択的自動化導入

ある食品製造工場では、人手不足が深刻だった「トレー詰め作業」に協働ロボットを導入。従来は4名で対応していた工程を2名+ロボットで稼働できるようにしました。

一方で、最終検品や微調整が必要なラベリング工程は、あえて人の手を残し、スピードより柔軟性を優先しました。

結果、全体の人件費は10%削減され、生産量は月15%増加しました。

人との協働も重要な視点

選択的自動化では、「人を補うロボット」としての活用がカギです。人の判断力・柔軟性と、機械の正確性・安定性をうまく組み合わせることで、現場全体のパフォーマンスが最大化されます。

特に以下のような工夫が効果的です。

  • 協働ロボットの導入で安全柵不要に
  • 作業者がロボットを教示できる簡易UIの採用
  • 現場の作業者が設計段階から意見を出す体制

まとめ:人手不足時代の“最適解”は全自動ではない

人手不足が続くこれからの時代、「すべて自動化しなければならない」という思い込みを捨て、「どこを、なぜ、どのように自動化するのか」を現場と一緒に考えることが重要です。

選択的自動化は、最小限の投資で最大限の効果を得るための現実的な戦略であり、人と機械が補完し合う“スマートな働き方”を実現する第一歩なのです。

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