自動化技術を活かしたBCP対策の具体例

事例紹介

地震や台風、パンデミックなど、想定外の災害や非常事態が発生した際でも、事業を継続・早期復旧するための取り組みが「BCP(事業継続計画)」です。

製造業にとって、工場の停止は顧客や取引先への影響が甚大となるため、BCPの構築と運用は今や企業の責任とも言える重要なテーマになっています。

そこで注目されているのが、自動化技術を活用したBCP対策です。

この記事では、初心者にも分かりやすく、工場におけるBCPと自動化の関係、そして具体的な活用例を解説します。


なぜ自動化がBCP対策に有効なのか

BCPとは、「災害や事故などの緊急事態に備え、事業を止めずに継続、あるいは早期に再開できるようにする仕組み」のことです。

製造業では、以下のようなBCP上の課題があります。

  • 作業員の出勤が困難な場合、生産ラインが稼働できない
  • 停電やシステム障害によって制御装置が停止する
  • 原材料や部品の供給停止により、工程が止まる
  • 情報共有が滞り、復旧の初動が遅れる

これらの問題を自動化技術の導入によって、予防または緩和することが可能です。ポイントは「人の力だけに頼らない体制を作ること」です。


自動化技術で実現するBCPの強化ポイント

自動搬送と無人化による人手依存の排除

AGV(無人搬送車)やAMR(自律走行搬送ロボット)を導入することで、物流工程を無人化し、出勤制限時でも出荷対応を継続できます。

また、材料供給・完成品搬出といった単純作業の自動化によって、少人数でも製造ラインを維持できる体制を作れます。


遠隔操作・リモート監視の導入

IoTセンサーやカメラを活用すれば、現場にいなくても工場設備の稼働状況や異常を把握することが可能です。さらに、クラウド経由でPLCや制御装置にアクセスできるようにすれば、オフィスや自宅から制御の確認・操作が可能になります。

災害や感染症で現場に立ち入れない場合でも、遠隔で状況把握・一次対応が可能な体制が重要です。


UPSと冗長化設計による電源・制御の安定性向上

自動化機器や制御装置には、停電に備えてUPS(無停電電源装置)を併設し、短時間でも稼働を維持できるようにします。加えて、サーバーや制御系の二重化(冗長構成)により、一方が故障してもバックアップで運用可能にします。

これにより、突発的な障害でも「完全停止を回避する設計」が可能です。


AIによる予測保全と自動判断

AIや機械学習を使った予知保全では、設備の振動・温度・稼働時間などから異常の兆候を検出し、故障を未然に防ぐことができます。これにより、突然のライン停止という最悪の事態を避けるとともに、メンテナンスの最適タイミングを判断する体制も構築できます。


分散生産の自動スケジューリング

複数拠点を持つ企業では、BCP対策として生産を一カ所に集中させず、複数工場で分散管理することが有効です。

このとき、自動スケジューリングシステムやMES(製造実行システム)を導入すれば、別拠点での代替生産を即座に判断・指示することが可能となり、リスク分散が現実的に行えます。


実際の導入事例

事例1:電子部品メーカーのパンデミック対応

感染症流行時、出勤制限がかかった工場では、AGVによる部品供給と、ロボットによる組立工程の自動化により、必要最小限の人員で稼働を継続

さらに、管理者は自宅からWebカメラとIoTを通じて生産状況をモニタリングし、トラブル時の初期対応も可能だった。


事例2:自動車部品工場の停電対策

落雷による停電リスクの高い地域にあるある工場では、制御盤ごとにUPSを設置し、主要機器はローカルPLCで冗長構成を構築

これにより、電力喪失時でも10分以上の稼働が可能となり、制御データの喪失を回避した。


事例3:食品工場のBCP設計と分散生産

地域停電や道路寸断時を想定し、主要ラインを別工場にも設置し、デジタルツインで稼働状態を共有

災害発生時にはシステムが自動的に製造拠点を切り替え、全国供給に支障を出さずに対応した。


導入時のポイント

ポイント内容
対象工程の洗い出し自動化がBCPに貢献する工程(搬送、監視、制御など)を明確にする
優先順位の決定被災時の影響が大きい工程から段階的に自動化
定期的な訓練・点検非常時に正しく機能するよう、シナリオ訓練や定期メンテナンスを実施
人との連携設計完全無人ではなく、「人と機械が補完し合う体制」の構築が現実的

今後の展望

今後は、AI・クラウド・ローカル5Gなどの技術進化により、BCP対応のためのスマートファクトリー化がさらに進むと予想されます。

特に、自律判断による生産制御や、災害時の情報共有と復旧支援の自動化が普及していくでしょう。

また、今後は「環境変化に強いレジリエントな工場」が競争力のある製造拠点として再評価される時代になると考えられます。


まとめ

BCP対策は「リスクをゼロにする」のではなく、「止まってもすぐに再開できる仕組み」を用意することが重要です。

自動化技術を活用することで、人手に頼らない柔軟な対応、復旧時間の短縮、設備の自律的運用などが実現可能になります。

これからの製造現場は、生産性と同じくらい「危機対応力」が求められる時代です。自動化はBCP強化の“投資”として、積極的に導入を検討すべきでしょう。

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