製造業の中でも“危険工程”として知られるプレス加工。金属を圧縮成形するその工程では、わずかな油断が重大事故につながる可能性があります。
近年では、安全性向上と人手不足の解消を目的に、ロボットを活用した自動化が急速に進んでいます。
しかし、プレス工程の自動化はただロボットを導入するだけでは不十分で、高度な安全設計と現場ノウハウが求められます。
本記事では、初心者にもわかりやすく、プレス工程におけるロボット化のポイントと、安全に導入・運用するための実践的な考え方を解説します。
プレス工程におけるロボット導入の背景
課題 | 説明 |
---|---|
労災リスク | 手作業でのワーク投入・取り出しが事故につながる |
人手不足 | 熟練者の高齢化と若年層の敬遠傾向 |
作業負担 | 重量物の繰り返し作業で腰痛・疲労が蓄積 |
品質バラツキ | 作業者の違いによるタイミングや姿勢の差 |
これらを背景に、人の代わりにロボットで搬送・投入・取り出しを行う自動化システムが普及しています。
プレス工程のロボット化で得られる効果
- 安全性向上:ロボット化により人が金型付近に立ち入る必要がなくなる
- 生産性の安定:24時間・正確なサイクルタイムで動作
- 品質向上:部品のズレ・傾きがなくなり、不良率低下
- 省人化:1人で複数ラインを監視できるように
導入前に理解すべき“安全設計”の基本
プレスロボットの安全設計では、以下の3つの観点が重要です。
✔ ① インターロック機構の整備
プレス機とロボットが連携し、「どちらかが動作中は、もう一方が停止」する仕組みが必要です。
- シグナルタワー連携
- PLCでの信号制御
- 非常停止回路の共有
✔ ② セーフティカーテン(ライトカーテン)の設置
ロボットの稼働エリアやプレス周辺に光センサー式の安全装置を設け、人が侵入すると自動停止する構成が基本です。
✔ ③ 安全策とフェンスの明確化
- メッシュフェンス+スライドドア+セーフティスイッチ
- メンテナンスエリアと通常稼働エリアを分離
実際のロボット化構成例
工程 | 自動化内容 |
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ワーク搬送 | AGVまたはコンベアで供給 |
ワーク整列 | ビジョンセンサー+位置補正機構 |
プレス投入 | ロボットハンドによる正確な位置決め |
プレス出し | 吸着式ハンドでの取り出し |
検査 | 画像判定で曲がりや異常検出 |
失敗しないための導入ノウハウ
✔ 1. “金型変更”を考慮したハンド設計
プレスでは段取り替え(金型交換)が頻繁に発生します。
→ ハンドを交換式にする/品種ごとに簡単切り替えできる設計が重要。
✔ 2. ロボットとプレスの「同期制御」が鍵
誤ってプレス動作中にロボットが手を入れてしまう…という事故を防ぐため、セーフティPLCで厳密な同期を取る必要があります。
✔ 3. メンテナンス性の確保
フェンスを増やしすぎると、メンテや清掃が困難になります。
→ “安全+利便性”を両立させる動線設計がポイントです。
✔ 4. 作業者への“教育”もセットで
- 安全停止の方法
- 手動操作時の注意点
- 定期点検の頻度とチェックポイント
これらをマニュアル+動画+実地研修で整備しましょう。
参考:中小プレス工場での導入事例
- 自動車部品メーカー(従業員40名)
- プレス機:80t×2台
- 導入機器:6軸ロボット×2台、セーフティPLC、周辺装置一式
成果:
- 手作業時のヒヤリハット報告件数が0に
- 2名作業 → 1人監視体制へ
- 品質不良率が20%改善
まとめ
プレス工程の自動化は、“安全”と“効率”を両立する先進施策です。
ロボットを導入するだけでなく、安全設計と教育・運用ノウハウが一体化した体制づくりが不可欠です。
まずは、「最も危険な動作」から順にロボット化を検討し、事故のない安心な製造現場を実現していきましょう。