製造現場における品質管理の最後の砦が「検査」です。中でもプラスチックやゴム、金属の成形品は、目視検査に頼っている工場が少なくありません。
しかし、ヒューマンエラーによる見落とし・判定ミス・バラつきが、重大な不良品流出を招くこともあります。こうした背景から、自動検査システムの導入が急速に進んでいます。
この記事では、初心者でもわかりやすく、成形品における自動検査の仕組みと導入のポイント、そして現場に起きる変化を解説します。
ヒューマンエラーの限界とは?
人による目視検査は以下のような課題を抱えています。
- 集中力の限界:長時間の検査で注意力が低下
- 判定基準のブレ:人によってOK/NGの基準が異なる
- 疲労による見逃し:一瞬の判断ミスが不良を流出させる
- 教育コストの増大:熟練検査員の育成が困難
これらは人間の特性によるものなので、いくら対策を講じても完全には防げません。だからこそ、「検査の自動化=ヒューマンエラーの撲滅」が期待されているのです。
自動検査システムとは?
自動検査とは、カメラやセンサーなどの装置を使い、機械的に良品/不良品を判別する仕組みです。
主な構成
要素 | 内容 |
---|---|
カメラ | 2D or 3D、モノクロ or カラーなど対象に応じて選定 |
照明 | 傷・汚れが見えやすくなるよう、リング照明や同軸照明を使用 |
画像処理ソフト | AI搭載 or ルールベースで判定ロジックを構築 |
NG品排出装置 | エアブローやアクチュエータで不良品を分離 |
統計記録機能 | 判定結果を自動記録し、品質管理に活用 |
対象となる不良の種類
自動検査では、以下のような目視で見ていた不良が対象になります。
- キズ・ひび割れ
- 欠け・バリ
- 異物混入
- 変色・ムラ
- 寸法異常(光学式 or レーザー計測)
製品の材質や形状に応じて、カメラの画素数や照明方法を調整することで、精度の高い検出が可能になります。
実例:自動検査を導入した成形品メーカーの変化
■ 背景
プラスチック部品メーカー(従業員50名)。目視検査員が4名で1日6000個の検査を行っていた。
課題:
- 判定のバラつき
- 検査速度の限界
- ベテラン依存からの脱却
■ 導入内容
- 高速ライン対応のカメラ検査装置(3台)
- AI画像処理ソフトでNG判定(バリ・欠け・寸法異常)
- NG品排出+自動仕分け
- 合否ログをクラウド保存しトレーサビリティ対応
■ 結果
- 検査員4名 → 1名へ削減(他工程に再配置)
- 見逃し不良が 月平均10件 → 0件 に
- 合否判定スピードが 3倍 に向上
- 不良率の傾向分析により、成形条件の見直しも可能に
自動検査導入の流れ
① どの不良を見つけたいかを明確にする
まずは「目視で見つけていた不良の種類」を洗い出し、どこまでを自動検査に任せるかを決めましょう。
② 検査対象物の安定供給が重要
製品が傾いたり、バラバラな状態だと正確に検査できません。
→ ガイドレールや整列機構の整備が不可欠です。
③ AIとルールベースの使い分け
手法 | 特徴 |
---|---|
AI画像判定 | 良否の差が曖昧でも“学習”で対応可。高精度だが学習に時間が必要 |
ルールベース | 長さ・面積など数値基準に強い。変種が少ない場合に向く |
④ NG品の自動排出設計
見つけた不良をどう処理するか(停止? 排出?)もシステム設計のポイントです。
よくある課題と対策
課題 | 対策 |
---|---|
微細なキズが検出できない | 高照度+偏光照明で可視化 |
位置ズレで誤判定 | 製品を固定・整列する仕組みの追加 |
判定が厳しすぎて歩留まり悪化 | NGの閾値を微調整 or AIで“許容範囲”を学習 |
画面の見方が難しい | 操作画面をカスタマイズして誰でも使えるように |
導入効果を最大化するには?
- 検査だけでなく、成形条件との連携で不良削減に活用
- 検査データを品質会議や監査資料に活用
- 検査員の経験値をAIに“学習させる”ことでノウハウ継承も可能
まとめ
目視検査にはどうしても限界があります。だからこそ、自動検査を導入することで、人的ミスをゼロに近づけ、品質の安定と省人化を同時に実現できます。
「高そう」「難しそう」と思っても、今では低価格カメラやクラウドAIサービスも充実しており、小規模な導入から始めることも可能です。
まずは、自社で多い不良の傾向を見直し、どの工程から自動検査に置き換えられるかを検討してみましょう。