製造業の現場では、自動化が進むことで生産効率が大幅に向上しました。
しかしその一方で、サイバーセキュリティの脅威にも晒されるようになっています。
PLCやIoTデバイスを含むネットワークに侵入されると、生産ラインの制御が奪われる危険性もあり、「万が一」に備える遮断設計の重要性が高まっています。
この記事では、初心者にもわかりやすく「セキュリティ障害時に自動化ラインを安全に遮断するための設計ポイント」について解説します。
なぜ遮断設計が重要なのか?
近年、以下のような攻撃が実際に発生しています。
- ランサムウェアによる生産ライン停止
- IoT機器への侵入による遠隔操作
- PLCをハッキングして誤動作を引き起こす
これらは、システムが外部とつながっている限り完全には防げません。
だからこそ重要なのが、「被害を最小限に抑えるための遮断設計(フェイルセーフ設計)」です。
遮断設計の基本方針
セキュリティ障害が発生した場合、以下の3原則に基づいて対処する必要があります。
原則 | 内容 |
---|---|
検知 | 通常とは異なる通信や動作を素早く検出する |
隔離 | 被害範囲を限定するためにラインやネットワークを物理的に分断する |
保護 | 作業者・製品・設備に被害が及ばないよう安全停止処理を行う |
遮断設計の具体的なステップ
■ 1. ネットワーク構成の分離
- ITネットワーク(事務系)とOTネットワーク(制御系)を分離することが第一歩。
- VLANやファイアウォールを設けて、外部から直接制御機器にアクセスできない構成にします。
■ 2. PLC/制御機器のフェイルセーフ設計
- PLCは異常を検知した際に自動で「停止」または「安全動作」へ移行するように設計します。
- 例:温度・圧力・モーター速度などが不正な値に達した場合、自動で電源を切る・弁を閉じるなど。
■ 3. 非常停止スイッチの物理冗長化
- 現場に配置されている非常停止ボタン(E-Stop)を複数設置し、いずれかが押されればライン全体を停止できるようにします。
- ネットワークが遮断されても物理的に停止が可能な構成が重要です。
■ 4. ログとモニタリングの仕組み
- 通信・動作・ログイン履歴などを常に記録・監視しておくことで、異常時の検知精度を高めます。
- 急激なトラフィック増加や、通常と異なる動作パターンを検知して自動アラートを出す仕組みを導入しましょう。
■ 5. 遮断の判断を自動で行うスクリプト設計
- センサー情報やログから異常を検知した際、自動的に以下のような処理を行うロジックを構築できます。
markdownif 通信異常が発生 and PLC異常信号が出力:
ラインを自動停止
ネットワーク接続を遮断
現場担当者にメール・Slackで通知
→ 人的判断が間に合わない場面でも初期対応が可能に。
実際の構築事例:電子部品メーカーの場合
背景
- IoT対応の新ラインを導入し、遠隔監視・制御が可能な状態に
- しかし、外部からのアクセスによりPLCに異常信号が送信された事例あり
対策内容
- OTネットワークにゲートウェイを追加し、常時監視+遮断トリガーを導入
- PLCが異常信号を受信した際、自動で各セクションのメインブレーカーが遮断されるようリレー制御追加
- 全動作履歴をSyslogサーバーへ送信し、過去の異常をすぐにトレース可能に
導入効果
指標 | 導入前 | 導入後 |
---|---|---|
侵入後の検出時間 | 数時間 | 数秒 |
障害発生時のダウンタイム | 2日 | 半日以内 |
作業者の安全確保 | 手動対応依存 | 自動停止による即時保護 |
その他の対策・補足
対策 | 解説 |
---|---|
UPS(無停電電源装置) | 遮断後も記録・通報を継続できるようにする |
オフライン操作手順 | すべての機器にネットワーク非依存の操作方法を用意 |
定期訓練 | 年1回以上、セキュリティインシデントを想定したシミュレーションを実施 |
まとめ
工場の自動化は生産性を飛躍的に向上させますが、同時にサイバーセキュリティ上のリスクも抱える時代になっています。
そこで重要なのが、「止めるべき時に安全に止められる」遮断設計です。
遮断=生産ストップという印象が強いかもしれませんが、“被害を広げないための能動的な防御”こそが、長期的に見た生産性の維持につながるのです。
自社の自動化ラインを見直し、「遮断できる設計になっているか?」を今一度チェックしてみてはいかがでしょうか。