製造現場でよく聞かれる悩みの一つが「属人化」です。
「〇〇さんじゃないと操作が分からない」
「不具合の対応がベテラン任せになっている」
「作業方法が人によって違う」
こうした属人化の状態では、品質のバラつきや生産効率の低下、人材の育成遅れなどさまざまな問題が発生します。
そこで有効なのが、「作業履歴」と「アラート情報」を活用した教育制度の仕組み化です。
今回は、初心者の方にもわかりやすく、その考え方と導入方法を解説します。
属人化が起きる3つの要因
まずは、属人化がなぜ発生するのかを整理しておきましょう。
- 作業ノウハウが言語化・記録されていない
- 異常やトラブル時の対応が人に依存している
- 教える人・教え方にばらつきがある
このような問題に対して、「記録とフィードバックの仕組み」を取り入れることで、誰でも同じように作業し、トラブルに対応できる現場をつくることが可能になります。
ポイント①:作業履歴の「見える化」で再現性を高める
作業履歴は、教育における「事実ベースのフィードバック材料」となります。
- 誰が、いつ、どの設備を、どの手順で操作したか
- 設備稼働時の設定値やタイミング
- 作業中に出た警告やアラートの履歴
これらの情報を記録・可視化することで、「なぜ品質が良かったのか/悪かったのか」を明確にでき、新人教育の際の参考にもなります。
実装の工夫:
- 操作ログをPLCやHMIから自動で記録
- デジタル日報と連携して個人別に集計
- “ベストパフォーマンス事例”を教育資料化
→「感覚で覚える」から「記録を参考に学ぶ」へシフトできます。
ポイント②:アラート履歴で“よくあるミス”を教材に
属人化が起こるもう一つの要因が、「トラブル対応の属人化」です。
特定の人だけが異常対応の経験を積んでおり、他の作業者には共有されないことがよくあります。
アラート履歴を活用すれば、頻発するミスや異常傾向を分析し、「事前に知っていれば防げた」内容を教材として組み込むことが可能です。
教育への展開:
- 頻度の高いアラートをランキング化
- 対応方法をステップごとに動画や図解でまとめる
- アラート発生後にポップアップで“処理ガイド”を表示
→ トラブルに遭遇したとき「誰でも正しく対応できる仕組み」を整備できます。
ポイント③:教育制度に“データ連携”を組み込む
単に記録するだけでは属人化は解消されません。重要なのは、それを教育に活かす仕組みにすることです。
- 作業ログに基づいた習熟度評価
- アラート対応回数・正確性のスコア化
- チェックリストに自動で結果を反映
これにより、教育の進捗が「感覚や印象」ではなく、「数字と履歴」によって判断できるようになります。
導入事例:組立工場での運用成功例
ある精密機器メーカーでは、設備操作に属人化が起きており、夜勤帯では不良率が2倍以上になるという課題を抱えていました。
そこで以下のような改善を行いました:
- 作業ごとに操作ログを自動記録(HMI・PLC連携)
- 警告ランプ点灯時の対応手順をモニター表示
- よくあるアラート5種を“動画付き教材”にして共有
- 教育管理者が各人の履歴と傾向をもとにOJTプログラムを調整
その結果、ミス率は40%改善、新人の独り立ちまでの期間が半分に短縮されました。
まとめ:記録とアラートが“教育の先生”になる
属人化は、放っておくと「いつまでも誰かの負担が増える」状態を招きます。
しかし、“記録”と“アラート”という客観的データを活用すれば、
- 教える内容とタイミングが明確になる
- 現場のナレッジが全員に共有される
- 教育の質が均一になり、再現性が高まる
といった大きな効果を生み出すことができます。
「人が人を教える」だけでは限界があります。
これからは「データが人を育てる」仕組みこそが、属人化を防ぎ、生産性と品質を同時に向上させる鍵となります。