製造業のデジタル化が進む中、「オンプレミス」と「クラウド」のどちらを基盤にすべきかという議論は続いてきました。ですが、近年ではその二択ではなく、「ハイブリッド構成」として併用する考え方が主流になりつつあります。
本記事では、オンプレとクラウドを組み合わせた“ハイブリッド自動化構成”について、初心者にもわかりやすく解説します。
オンプレとクラウド、それぞれの特徴
オンプレミス(オンプレ)とは?
工場内や企業内に設置された自社専用のサーバー・ネットワークを使って、制御やデータ処理を行う形態です。
メリット:
- リアルタイム性が高い(ミリ秒単位の制御が可能)
- 外部ネットワークへの依存がない
- 社内ポリシーに合わせてセキュリティ設計が可能
デメリット:
- 初期投資と保守コストが高い
- 遠隔地との連携や拡張が難しい
クラウドとは?
インターネット経由で外部のクラウドサーバーを活用して、データ蓄積・監視・分析・AI連携などを行う形態です。
メリット:
- 複数拠点のデータを統合・可視化できる
- 拡張性と柔軟性が高く、初期導入も比較的容易
- AIやBIツールとの連携がしやすい
デメリット:
- 通信が不安定なときは制御に支障が出る
- セキュリティ対策が不十分だとリスクになる
ハイブリッド構成とは何か?
ハイブリッド構成とは、オンプレの安定・リアルタイム制御の強みと、クラウドの柔軟なデータ活用能力を組み合わせた構成です。
例えば、
- ラインの制御はオンプレのPLC・産業用PCで行う
- その稼働データをクラウドへアップロード
- クラウド側で予兆保全や分析を実施
- 結果をオンプレにフィードバックして最適化
このように、役割を分担させることで、それぞれの強みを活かしたスマートファクトリー運用が可能になります。
構成イメージとポイント
- オンプレ側: PLC/HMI/産業用PCなどによる制御と即時応答
- ゲートウェイ: データをクラウドに送信する中継装置(IoTゲートウェイなど)
- クラウド側: データベース/ダッシュボード/AI/BIツール/通知機能
さらにVPNやTLSで通信を暗号化することで、セキュアな連携が可能になります。
ハイブリッドの導入で得られるメリット
- 障害時もオンプレで継続稼働: 通信断でもラインが止まらない
- データ分析の高度化: AIによる不良要因分析や予兆保全
- 本社から複数工場の状況を一括把握: 経営判断の迅速化
- アプリ連携で通知やレポートを自動化: 労力削減と属人化解消
実際の活用事例
- 部品加工工場: CNC機のデータをオンプレで収集し、クラウドBIで稼働率を分析。歩留まり向上に貢献。
- 食品工場: ライン制御はオンプレ、温度ログや異常履歴はクラウドで可視化。スマホからも監視可能に。
- 多拠点企業: 各拠点でオンプレ制御しつつ、全工場の設備状況をクラウドに集約。経営レポートを自動生成。
まとめ:目的に応じた「いいとこ取り」構成を
オンプレとクラウドのハイブリッド構成は、どちらか一方に依存するのではなく、それぞれの強みを活かして最適なシステムを構築する考え方です。
「止めない制御」はオンプレ、「つなげて活用する」はクラウド。この使い分けが、これからの工場自動化の成功の鍵になるのです。