自動化装置を設計する際、どれだけ良い図面や仕様書を作っても、「実機を動かしてみたら思った通りに動かない」というケースは少なくありません。
その多くは、設計段階での“視点の欠落”に起因しています。
そのため、自動化装置の設計レビュー(DR:Design Review)は、単なる“確認作業”ではなく、多角的な視点でリスクを洗い出し、完成後のトラブルを防ぐための重要工程なのです。
設計レビューで見落としがちな6つの視点
安全性:人と設備の“距離”をどう保つか
- 非常停止ボタンの位置は適切か?
- 危険部位はカバー・インターロックされているか?
- 作業者が無理な姿勢にならないか?
安全設計は、事故だけでなく、作業者の心理的な安心感にもつながります。
保守性:壊れたとき“すぐ直せる”か
- 機器の交換や調整に工具は入るか?
- 電気・エアの配線が整備しやすいレイアウトか?
- メンテナンス箇所はマニュアルに明示されているか?
“保守しやすい機械”は、稼働率を大きく左右します。
操作性:誰が使っても“迷わない”か
- タッチパネルは直感的なUIになっているか?
- 品番切替は誰でもできる設計になっているか?
- 異常時のアラートやログは確認しやすいか?
設計者にとっては当たり前の操作も、現場では教育時間やヒューマンエラーにつながる要素になります。
再現性:毎回“同じ結果”が出せるか
- 位置決め精度・加締め圧力・検査基準など、バラつきを防げる構造か?
- 設備の立ち上げ直後・長時間稼働後も品質が安定するか?
“慣れた人しか使えない設備”は真の自動化とは言えません。
柔軟性:製品や仕様が変わっても使えるか
- 品番切替・治具交換が容易な設計か?
- レシピ設定や品番登録がユーザーフレンドリーか?
- 近い将来の増設や変更にも対応可能な構造か?
一度作った設備は、3年・5年と“使い続ける”前提で設計することが重要です。
データ連携:見えない動きを“見える化”できるか
- 生産数・異常履歴・停止時間を記録できるか?
- 上位システム(MESやSCADA)との連携を想定しているか?
- 将来的なIoT化や予兆保全に活用可能な構成か?
今や、自動化設備は単に“動くだけ”でなく、“データを持つ”ことが当たり前になりつつあります。
レビュー体制の整え方
メンバー構成
- 機械設計担当
- 制御設計担当
- 生産技術・保全担当
- 品質管理担当
- 現場オペレーター代表
“多職種での視点”こそがレビューの強み。現場に近い人の意見は最も貴重です。
タイミング
- 構想設計段階(初期DR)
- 詳細設計段階(中間DR)
- 製作前の最終確認(最終DR)
それぞれの段階でチェックリストを活用し、形式だけで終わらせない工夫が必要です。
チェックリスト例(抜粋)
項目 | チェック内容 |
---|---|
安全性 | カバーの設計、非常停止の位置、非常時停止の動作確認 |
保守性 | 各部品の交換作業スペースの確保、工具のアクセス性 |
操作性 | 操作パネルの配置、説明ラベルの明確さ |
柔軟性 | 品番切替の仕組み、治具の交換性 |
データ連携 | 稼働ログの取得、異常履歴の記録手段 |
実例:設計レビューで防げたトラブル
ある梱包装置では、設計レビュー時に「保守性」の視点で確認した結果、制御盤が作業台の下にあり、ドライバーが入らないことが判明。
その場でレイアウト変更し、後工程での配線や設置工数を削減できました。
1時間のレビューが、3日分のトラブルを未然に防いだ例です。
まとめ:「見たつもり」を「見た」に変えるのが設計レビュー
設計レビューは単なる“図面チェック”ではありません。
- 現場でどう使われるか
- 将来どう変わっていくか
- 誰が困る可能性があるか
これらを多角的な6つの視点で“先読み”することで、自動化装置の完成度と信頼性が大きく向上します。
小さなレビューが、大きな安心と成果につながります。