近年、工場のデジタル化・スマート化が進む中で、通信手段として無線ネットワークを活用するケースが増えています。配線不要でレイアウト変更にも柔軟に対応できる無線通信は、特にロボットや移動体、センサーの多い現場で有効です。
しかし一方で、「通信が不安定で誤動作した」「干渉でセンサーデータが抜けた」など、無線特有のトラブルも報告されています。この記事では、工場内で無線通信を安定して使うための工夫を初心者向けに解説します。
なぜ無線ネットワークが注目されるのか
工場内の配線は、レイアウト変更や設備増設のたびに手間とコストがかかります。そのため以下のようなメリットから、無線通信が選ばれるようになりました。
- ケーブルレスで工事費を削減できる
- レイアウト変更に柔軟に対応できる
- ロボットやAGVなど移動体との相性が良い
- 遠隔モニタリングや予兆保全と相性が良い
しかし、工場は機械や金属が多く、無線環境としては決して理想的とは言えません。
工場における無線通信の課題
工場内で無線通信を使う場合、以下のような問題が起きることがあります。
- 電波干渉:他の無線機器やWi-Fiと周波数帯が重なる
- 遮蔽物:金属製の機械や壁が電波を遮る
- 通信遅延:リアルタイム性が必要な制御には不向き
- 信頼性:データ欠損や一時的な断絶が生じることがある
これらを理解し、あらかじめ対策を講じることが安定運用の鍵となります。
安定運用のための工夫①:用途ごとに通信方式を分ける
無線通信には様々な方式がありますが、すべてをWi-Fiでまかなうのは危険です。たとえば、
- センサーデータ収集:LPWAやZigBeeが低消費電力で有効
- 映像モニタリング:Wi-Fi 6や5GHz帯が推奨
- リアルタイム制御:無線は避け、有線やTSN(Time Sensitive Networking)を併用
通信内容の重要度に応じて「分離設計」することで、安定性を高められます。
安定運用のための工夫②:アクセスポイントの最適配置
無線の安定性には、アクセスポイント(AP)の設置場所が重要です。金属製の設備やクレーンが多い工場では、見通し距離が短くなるため、以下を意識しましょう。
- 壁や柱の影にならないよう高所に設置
- 干渉を避けるため、2.4GHzと5GHzを使い分ける
- 複数のAPをメッシュ構成で配置し、ローミング対応に
無線環境を一度「電波シミュレーション」することも有効です。
安定運用のための工夫③:通信ログを常時監視する
見えないトラブルをいち早く把握するには、通信ログの可視化が有効です。
- パケットロスの多い時間帯を把握
- 特定の機器が頻繁に切断していないか確認
- 定期レポートで傾向を把握して改善に生かす
トラブルが起きてから対応するのではなく、「起きそうな兆候」を事前に察知できる仕組みを整えましょう。
まとめ:無線でも“工場品質”を目指す
無線通信は便利で柔軟な手段ですが、工場という特殊な環境では「通信品質の確保」が最大の課題となります。導入前の電波環境調査、通信方式の適正選定、日常的な監視と改善によって、無線でも“工場品質”を実現することができます。
無線ネットワークを正しく使いこなすことが、これからのスマートファクトリー構築の基盤になるのです。