工場のスマート化が進む中、通信手段として無線ネットワークが広く使われるようになってきました。センサーデータの収集、AGVやロボットとの通信、遠隔モニタリングなど、無線通信の役割はますます大きくなっています。
一方で、「無線だけに頼ると不安」という声も根強く、有線と無線のどちらを使うべきか悩む現場も多いのが現状です。
そこで注目されているのが「有線通信と無線通信の併用設計」。この記事では、そのメリットと実際の活用方法を初心者向けにわかりやすく解説します。
無線のメリットと弱点を知る
無線通信(Wi-Fi、ZigBee、Bluetooth、LPWAなど)は、工事不要で柔軟性が高く、以下のような利点があります。
- レイアウト変更に強い
- 移動体(ロボットやAGV)との相性が良い
- 配線コストの削減
一方で、電波干渉や通信遅延、遮蔽物による影響を受けやすいという弱点もあるため、すべてを無線でまかなうのはリスクがあります。
有線のメリットと限界
有線通信(Ethernet、シリアル通信、PROFINETなど)は、物理的に安定した通信が可能で、制御信号や映像伝送などリアルタイム性が要求される場面に強みを発揮します。
- 通信の安定性が高い
- ノイズに強く、長距離でも安定
- 高速なデータ伝送が可能
ただし、工事や配線が必要なため、レイアウト変更や拡張がしづらいというデメリットがあります。
「併用設計」で通信トラブルを最小限に
それぞれの長所と短所を踏まえ、「有線+無線」の併用設計を行うことで、通信トラブルのリスクを大幅に軽減できます。
たとえば、
- 制御信号: 有線で確実に伝送
- 状態モニタリング: 無線でリアルタイムに監視
- AGVの位置情報: 無線で取得し、制御系は有線で指令
このように「役割ごとに使い分ける」ことがポイントです。
冗長化によるバックアップ運用
さらに上級者向けの設計として、無線と有線を「冗長化(バックアップ)」として活用する方法もあります。
たとえば、通常は有線で通信を行い、有線が切断された場合に自動的に無線に切り替える構成にすることで、設備トラブルや配線断線に強いシステムが構築できます。
また、監視システムであれば、ログ送信は無線、異常発生時のみ有線で通知を行うといった「通信の負荷分散」も効果的です。
併用設計時の注意点
有線と無線の併用を行う際は、以下の点に注意が必要です。
- 通信方式のプロトコル互換性: 同じネットワーク上で干渉しないよう確認
- セキュリティ対策: 無線側には暗号化・認証機能を設ける
- 通信ログの記録: どちらの回線が使用されたかを確認できる設計に
「とりあえず無線も使っておこう」ではなく、「どんなときにどちらを使うか」を明確にしておくことが重要です。
まとめ:「通信の多様化」に強い設計を
スマートファクトリーが進化する中で、通信トラブルは生産性に直結するリスクです。そのリスクを軽減するためには、有線と無線の特性を理解した上での併用設計が有効です。
安定性と柔軟性を両立させる“ハイブリッド通信”の導入こそが、次世代の工場に求められる設計思想なのです。