工場自動化の取り組みが成功した後、次のステップとしてよく出てくるのが「他工場への横展開」です。単一工場での成功を他拠点に広げることで、全社的な生産性向上やコスト削減が実現できます。しかし、そこで課題になるのがコスト配分と見積もりの考え方です。
この記事では、複数工場に横展開する際のコスト配分方法と、具体的な見積もり例を初心者向けにわかりやすく解説します。
横展開のメリット
横展開とは、1拠点で得られた成果やノウハウを他の工場に適用することです。
主なメリット
- 開発・検証コストの削減
- 社内標準化による効率化
- ベンダーとの交渉力向上(大量発注による割引)
- メンテナンス・教育の一元化
コスト配分の考え方
複数工場への展開では、コストをどのように分担するかが重要です。代表的な考え方を見ていきましょう。
1. イニシャルコストとランニングコストを分ける
- イニシャルコスト(初期費用)
開発費、設計費、検証費、設備費、ソフトウェアカスタマイズ費など。 - ランニングコスト(維持費)
保守契約費、ライセンス料、消耗品費、教育費など。
→ 例:初期費用は工場ごとに均等配分、ランニングコストは使用割合で按分。
2. 均等配分 vs. 使用割合配分
- 均等配分
各工場で同額を負担するシンプルな方法。主に全社的な取り組みの場合に採用。 - 使用割合配分
生産量や売上規模、設備台数に応じて負担割合を決める方法。
例
- A工場(生産量50%)
- B工場(生産量30%)
- C工場(生産量20%)
→ コストを5:3:2で配分。
3. 成果連動型負担
各工場の投資対効果(ROI)に応じて負担額を調整する方法。難易度は高いですが、公平性は高まります。
見積もり例:自動検査装置を3工場に展開するケース
項目 | 総額 | 配分方法 | A工場 | B工場 | C工場 |
---|---|---|---|---|---|
開発・検証費 | 600万円 | 均等配分 | 200万円 | 200万円 | 200万円 |
装置本体・設置費(1台) | 300万円 ×3 | 実費 | 300万円 | 300万円 | 300万円 |
教育費 | 90万円 | 均等配分 | 30万円 | 30万円 | 30万円 |
年間保守費 | 60万円 | 使用割合(5:3:2) | 30万円 | 18万円 | 12万円 |
合計負担額
- A工場:200+300+30+30=560万円
- B工場:200+300+30+18=548万円
- C工場:200+300+30+12=542万円
横展開を成功させるポイント
- 全工場の現場状況を事前確認
設備・人員・生産条件が異なるため、単純コピーはNG。 - スモールスタート
まずは1工場でパイロット運用を行い、課題を洗い出す。 - 全社横断の推進チームを設置
横展開の調整役として、各工場の意見を吸い上げる役割。 - ベンダーとの一括契約で交渉
分散発注せず、まとめて契約することでコストメリットを最大化。 - 導入後の効果測定
全工場で同じ指標を用いて効果を見える化し、継続改善へ。
事例紹介
ある電子部品メーカーでは、AI検査装置をまず本社工場に導入。約半年の運用データをもとに、地方2工場に横展開しました。コストは均等と使用割合を組み合わせ、全体負担を調整。ベンダーと一括契約を結ぶことで、単価を約10%削減し、横展開全体のROIが向上しました。
まとめ
複数工場への横展開は、単なるコピー導入ではなく、適切なコスト配分と見積もり設計が不可欠です。計画段階から工場ごとの事情を考慮し、全社的な成果を最大化できるよう、柔軟な戦略を立てましょう。