自動化設備を導入する際、最も初期のハードルとなるのが「社内稟議(りんぎ)」です。
現場としては「絶対に導入したい!」と思っていても、経営層や管理部門からの理解が得られず、稟議が通らないというケースは少なくありません。
その大きな理由は、「メリットが曖昧で伝わっていない」からです。
この記事では、説得力のある稟議書に必要な“メリットの見える化”の考え方と資料の例を、初心者にも分かりやすく紹介します。
なぜ「見える化資料」が必要なのか?
経営層は、技術的な内容や専門的な装置の仕様そのものよりも、以下のような“経営的視点”を重視しています。
- いくら投資して、どのくらいの効果があるのか?
- どのくらいで投資を回収できるのか?
- 他部署にどんな影響があるのか?
- 本当に現場で活用されるのか?
そのため、技術者が考える「この装置が優れているから導入したい」だけでは不十分で、「誰にでも理解できる数字と図で説明する」ことが求められます。
「自動化メリットの見える化」資料の構成例
✔ ① 導入の背景と目的(図解付き)
- 【現状】:作業者が1人でネジ締め作業を毎日4時間
- 【課題】:作業者が疲労してミスが増加。残業も発生
- 【目的】:自動化により作業時間の短縮と品質安定を目指す
※フローチャートや現場写真などで視覚的に示すと効果的。
✔ ② 投資概要と導入内容
項目 | 内容 |
---|---|
対象設備 | 協働ロボット1台(ネジ締め) |
導入場所 | 第1組立ライン |
投資金額 | 380万円(装置・設置費・教育含む) |
稼働予定 | 2025年10月~(2交代制) |
✔ ③ 年間効果と回収期間(ROI)
効果項目 | 金額(円) | 備考 |
---|---|---|
人件費削減 | 2,000,000 | 1人分×年収換算 |
残業削減 | 400,000 | 月20時間×12ヶ月 |
品質安定化 | 300,000 | 不良削減分のコスト削減 |
合計効果 | 2,700,000 | – |
回収期間 | 約1.4年 | 380万円 ÷ 270万円 |
※円グラフで「効果構成比」を示すと分かりやすい。
✔ ④ 比較表:手作業 vs 自動化後
項目 | 手作業 | 自動化後 |
---|---|---|
工数 | 4時間/日 | 0.5時間/日 |
作業者数 | 1名常駐 | 巡回点検のみ |
ミス件数(月) | 平均6件 | 1件以下(テスト結果) |
→ 定性的な評価だけでなく、数値で比較することで説得力が増します。
✔ ⑤ スケジュール・体制
- 7月:稟議通過・発注
- 8月:納入・設置
- 9月:試運転・作業者教育
- 10月:本稼働
※「誰が担当するか」まで記載すると管理部門も安心。
あると効果的な資料形式
資料 | メリット |
---|---|
パワーポイント資料 | 図・グラフで見やすく、説明しやすい |
Excel試算表 | 数値の根拠を示しやすい |
導入事例リスト | 他社や社内の成功事例があると後押しに |
動画・写真 | 実機のイメージや工程の様子を直感的に伝えられる |
稟議書で押さえる3つのポイント
✔ 数字で語る:定量化が信頼を生む
定性的な表現(便利になる、楽になる)ではなく、「年間工数2,000時間削減」「残業80%減」など、具体的な数値で表す。
✔ リスクも併記する:信頼感を得る
「装置トラブル時は保守契約で48時間以内対応可能」など、ネガティブな要素も誠実に書くことで稟議が通りやすくなる。
✔ 全社への波及を想定する:展開性があると強い
「この実績をもとに他工程へ水平展開可能」と書くと、戦略的投資としての意味合いが強くなり、承認されやすくなります。
まとめ
自動化導入の成功は、現場の熱意だけでなく、“資料で経営層を動かす力”にもかかっています。
そのためには、数字・図・表を使って、誰が見ても納得できる構成でメリットを“見える化”することが不可欠です。
まずは、1ページでもいいので、効果をグラフ化・数値化した資料をつくってみることから始めてみましょう。