自動化設備の操作において、すべてをマニュアルで教えようとしても限界があります。
「手順通りにやってもエラーが出る」「音や感覚でしかわからない違和感がある」──そんな“暗黙知”の領域が現場には存在します。
この記事では、自動化設備における“マニュアル化できない部分”にどう対処すべきか、現場での実践例を交えてわかりやすく解説します。
そもそもなぜマニュアル化できないのか?
現場の作業には、以下のような“マニュアルでは言語化できない知識”が存在します。
- 音の違和感や機械の振動変化
- 原材料や気温による微調整
- ベテランが“経験的に知っている”異常兆候
- 異常時の優先順位判断(止めるor流す)
これらは「五感で感じる判断」や「ケースバイケースの対応力」に依存しており、文章や手順書だけでは伝わらないのが実情です。
対処法①:動画×実演で“空気感”ごと伝える
言葉で伝えにくい操作や判断は、“動画+ナレーション”で共有するのが効果的です。
- トラブル時の「音」を記録する(異常ベルト音など)
- 微調整の“手の動き”を撮影(レバー操作、ツマミ調整)
- 操作者の“迷い”や“判断の根拠”を解説付きで撮る
実際の設備を前に撮影することで、「現場の空気感」ごと学ぶことができます。
対処法②:判断の「根拠」や「背景」を一緒に記録する
作業指示に「理由」や「条件」を加えることで、“暗黙の判断”が可視化できます。
例:
- 「温度が80℃超えたら停止」ではなく、「通常は70〜75℃。過去に80℃を超えると異音が出たため、安全のため停止」
- 「この部品は先に取り付ける」ではなく、「先に付けないと、後からトルクが入りづらくなるため」
こうすることで、「判断をなぜそうしたか?」が共有でき、応用力の育成につながります。
対処法③:“例外対応ログ”を蓄積する文化を作る
異常時や想定外の対応こそ、“現場の知恵”の宝庫です。
- 「この日は湿度が高く、排出速度が遅れた」
- 「バージョン違いの部品が混入していたため手作業に切り替えた」
- 「Aラインでエラーが出たが、Bラインは問題なし。原因はセンサー清掃不足と推定」
こうした対応を“日報”や“Slackチャネル”などに日常的に記録する文化が重要です。
対処法④:OJT+“観察メモ”型の教育法
OJTの際に「ただ見せる・やらせる」だけではなく、観察メモの活用が有効です。
- 新人がベテランの操作を見て「気づいたこと」「質問したいこと」を記録
- 操作後に「なぜそう判断したのか?」をインタビュー形式で振り返る
- それらを“OJTレポート”として残す
この手法により、マニュアルには書かれていない“判断の裏側”が自然と共有されます。
対処法⑤:「勘どころ」の言語化ワークショップ
現場リーダーや熟練者に対して、“感覚でやっている操作”をあえて言語化するワークを行います。
- 例:「止まりそうなとき、どうわかる?」→「普段より回転音が1オクターブ高い感じ」
- 「異常が出る前兆って?」→「パネルの反応がワンテンポ遅くなることがある」
これらは“共有可能な感覚知”として、現場のナレッジに昇華できます。
実例:製缶ラインでのマニュアル補完事例
ある金属加工工場では、新人オペレーターが「手順通りやっても異常が出る」と悩んでいました。
原因は、プレス工程で「少しタイミングをずらす」必要があったこと。これはベテランが“肌感覚”で対応していたため、マニュアルには一切記載されていませんでした。
そこで、
- 操作のタイミングをスローモーション動画で撮影
- ベテランが“どんなときに遅らせるか”を解説
- それをQ&Aマニュアル+動画リンク付きで共有
結果、新人でも安定して操作ができるようになり、教育期間も半分以下に短縮されました。
まとめ:マニュアルにできない部分こそ、“現場の財産”
すべてをマニュアルで伝えようとするのではなく、「マニュアルにできないものは、別の手段で共有する」発想が必要です。
- 動画・音声で“感覚”を伝える
- 判断理由を言葉で補足する
- イレギュラー事例を蓄積する
- OJTで観察・対話する
こうした工夫を重ねることで、「人が育つ現場」「応用が利く現場」へと進化していきます。