製造業では、少子高齢化による人材不足が深刻な課題となっています。その対策として注目されているのが「多能工育成」です。一人が複数の工程をこなすことで、現場の柔軟性が高まり、人手の偏りや突発対応にも強くなります。
しかし、昨今の現場はロボットやPLC、自動制御装置など“自動化された工程”が増えており、従来の「作業を覚える多能工」だけでは不十分です。
そこで必要になるのが、「自動化設備の操作・理解」を含めた“融合型の多能工プログラム”です。
なぜ“自動化スキル付き多能工”が求められるのか?
以下のような課題が、多能工と自動化の融合を必要としています:
- 自動機が止まるたびに、限られた専門担当を呼んで対応している
- 「操作できる人」が限られ、ラインが止まるリスクがある
- 設備保全や操作が“属人化”し、教育に時間がかかる
こうした状況を打破するには、「誰もが基本的な自動化機器の扱いを理解している」体制が重要です。
融合型スキル育成の基本構成
多能工育成と自動化教育を一体化させたプログラムでは、以下の3ステップが鍵になります。
ステップ①:工程スキルの可視化と棚卸し
- 各従業員がどの工程をどのレベルで操作できるかを見える化
- 自動化設備についても、「監視」「操作」「簡易調整」など分類
- スキルマップを使って、習得すべき内容を整理する
ステップ②:操作・トラブル対応の“標準教育”
- ロボット操作、タッチパネルUI、簡易プログラム操作などを基礎として全員に教育
- 「操作できる」ではなく「判断できる」「対応できる」状態を目指す
- 操作手順動画、Q&A、現場マニュアルなどを活用し、属人性を排除
ステップ③:OJTでの“工程横断教育”
- 日々の業務の中で、異なる工程・設備に触れる機会を設ける
- 操作者と保全者が一緒にトラブル対応を行うペア教育
- 教える側にも評価や指導ポイントを与え、現場での循環を作る
実例:中堅メーカーでの導入効果
ある食品製造企業では、6つの自動化ラインを各1名ずつの担当制で回していましたが、担当者不在時に稼働が止まる問題を抱えていました。
そこで、以下のような融合型多能工育成を開始。
- 全員が基本的な自動化ライン操作と異常リセット手順を学習
- スキルマップに応じて、対象工程をローテーション
- トラブル対応マニュアルを写真と動画付きで整備
導入から半年で、ライン停止時間が40%削減。担当不在でも他メンバーが応援に入れる体制が確立しました。
教育のポイント:難しくしない、“使える知識”を
- プログラミング教育よりも「操作と対応」に重点を置く
- 難解なマニュアルではなく「図解+手順書+動画」で伝える
- 「覚える」でなく「試してみる」教育(タッチパネル操作のシミュレータ等)
また、“なぜその操作が必要か”を教えることで、単なる手順ではなく「判断力」が育ちます。
導入を成功させるコツ
- リーダーや熟練者が「教える側」に回れるように仕組み化
- スキル習得と評価を連動させて、モチベーションを維持
- トラブル事例を共有し、「再発防止」と「教育素材化」を同時に進める
このような体制を整えることで、自動化設備と人材育成が“分断されない”組織づくりが可能になります。
まとめ:これからの現場は“多能×自動”が標準
これまでの“手作業の多能工”だけでは、これからの自動化された工場には対応できません。
「人が設備に対応できる力」を育てることが、持続的な現場力の鍵になります。
- 設備を操作できる
- 複数工程を理解できる
- トラブル対応ができる
- それを教えられる
この“多能×自動スキル”こそ、次世代の強い現場をつくる要となるのです。