自動化を計画する際、「何を自動化するか」「どう自動化するか」を考えるのは当然ですが、“誰のための自動化か”を置き去りにしては成功しません。
その鍵を握るのが、構想段階での「現場ヒアリング」です。
つまり、実際に作業している人たちの声を聞き、自動化に反映させるプロセスこそ、投資の効果を最大化するポイントなのです。
なぜヒアリングが重要なのか?
表面に出ない“暗黙のノウハウ”が拾える
現場ではマニュアルにない工夫や“コツ”が存在します。
それを無視して自動化すると、逆に品質や生産性が下がるリスクもあります。
作業者の納得感が生まれる
「自分たちの意見が反映された」と感じることで、導入後の協力や改善意識が高まります。
潜在的な問題点に気づける
現場ヒアリングでは、設備トラブルの頻度や、手間の多い作業など、データでは見えにくい課題を掘り起こせます。
ヒアリングのタイミングと対象
タイミング:自動化の“構想段階”がベスト
設計後や機器選定後では遅く、最初の企画段階で現場の声を反映させることが肝心です。
対象:多様な立場から選ぶ
- 実際に作業しているオペレーター
- 設備保全やメンテナンス担当
- 品質管理・検査員
- 現場リーダーや班長
それぞれ異なる視点を持っており、“現場の全体像”を把握するには複眼的な意見が必要です。
効果的なヒアリングの進め方
「困っていること」を引き出す質問設計
「どんな作業が大変ですか?」「トラブルが起きやすい場所は?」といった、作業負荷や課題に焦点を当てた質問を準備しましょう。
作業現場での“同行観察”を併用
話だけでは見えない部分を、実際の作業を見ながら質問することで、より具体的な改善点が見えてきます。
否定しない姿勢と傾聴
「そんなことは自動化で解決できますよ」などと話を遮るのではなく、まずは最後まで聞く姿勢が大切です。
質問の最後に「理想の形」を尋ねる
「理想的にはどんな仕組みになったら嬉しいですか?」と聞くと、現場の潜在ニーズが見えてくることもあります。
実例:部品組立ラインのヒアリングからの改善
ある電子部品の組立工場では、ねじ締め工程の自動化を検討していました。
当初はロボットアームを導入する予定でしたが、現場ヒアリングで以下のことが分かりました。
- 作業者は微妙な位置調整と「仮止め→本締め」を手作業で行っていた
- 部品の個体差により、締め付け角度が変化することがある
- トルク管理よりも“感覚”による品質判断が多かった
この結果、協働ロボット+仮締め装置+手作業仕上げというハイブリッド構成に変更。
自動化率は100%ではなかったものの、作業負荷とミスが大幅に軽減され、作業者の満足度も高まりました。
現場ヒアリングを構想にどう組み込むか?
構想段階で「現場ヒアリング日」を設ける
- プロジェクト立ち上げ後、最初の1週間で複数部署からヒアリング
- 作業観察とセットで行うのがベスト
ワークシートを使って情報を整理
- 現在の作業フロー
- 課題・改善要望
- 必要なスキルやコツ
これらを可視化することで、設計時の要件として反映しやすくなります。
構想書に「現場の声反映欄」を設ける
- 「現場から得た要望」
- 「今回の自動化で満たすこと」
- 「未対応の課題(将来対応)」
といった形で記録に残しておくと、プロジェクトの透明性も高まります。
まとめ:“机上の理想”を“現場の現実”とすり合わせる
自動化構想の段階で、現場の声をきちんと取り入れることで、次のような効果が期待できます。
- 設備が“使われる”自動化になる
- ヒューマンエラーやトラブルの防止
- 作業者の理解と協力を得やすくなる
机の上で考えるだけでは、現場の本当の課題は見えてきません。
“人の知恵”を取り込むことで、本当に役立つ、無駄のない自動化が実現するのです。