工場の自動化が進む一方で、災害や停電といった「有事」への対応もますます重要になっています。多くのラインは商用電力に依存しており、突発的な停電や電力供給の断絶により、生産が完全にストップしてしまうリスクを抱えています。
そこで注目されているのが「バッテリー駆動ライン」です。
この記事では、有事の際でも稼働可能な仕組みとしてのバッテリー駆動ラインの構築方法を、初心者向けに分かりやすく解説します。
バッテリー駆動ラインとは?
バッテリー駆動ラインとは、商用電源に依存せず、蓄電池(バッテリー)からの電力供給だけで一定時間、製造ラインを稼働させる仕組みです。
通常時は商用電力で運用しつつ、停電時には自動的にバッテリーに切り替わり、ラインの停止を最小限に抑えます。バックアップ電源よりも可搬性が高く、小規模エリアごとに分散配置することも可能です。
導入のメリット
バッテリー駆動ラインを構築することで、次のような効果が期待できます。
- 停電時の生産停止を最小限に抑える
- 作業者やロボットの安全な動作停止を確保
- 重要データの保存やログ取得の猶予を確保
- エネルギーの平準化やピークシフトにも対応可能
バッテリー選定のポイント
バッテリー選びは、ライン構築の成否を分ける重要な要素です。以下の点に注意しましょう。
- 容量:必要な稼働時間(例:15分、1時間など)に応じてkWhを算出
- 出力:瞬間的な起動電流に耐えられる出力(kW)を確保
- 寿命:充放電サイクル回数(例:3000回以上が理想)
- 設置場所:屋内・屋外の温度条件や防塵・防水性の確認
リチウムイオンバッテリーが主流ですが、安全性とコストのバランスで鉛蓄電池を選ぶケースもあります。
構成例:ライン全体の設計イメージ
バッテリー駆動ラインの基本構成は次のようになります。
- 通常電源ライン:商用電源による通常稼働
- 切替スイッチ・自動転送装置(ATS):停電時に自動でバッテリーに切り替える
- バッテリーバンク:事前に充電された蓄電池群
- インバーター:直流(DC)→交流(AC)変換装置
- 対象設備:モーター、PLC、センサー、照明など
特にATS(自動転送スイッチ)は切替の速度が重要で、数ミリ秒〜数秒の遅れでもPLCの再起動が発生するため、精度の高い機器を選定する必要があります。
実際の導入事例と運用のコツ
たとえば、ある食品工場では包装ラインの「最終工程エリア」にのみバッテリー駆動を導入しています。これにより、災害時にも在庫品の封入作業を継続でき、廃棄ロスを削減できました。
また、AGV(無人搬送車)や一部の検査設備にバッテリー電源を常設することで、重要工程のみの「フェーズド駆動」も実現できます。
制御と監視のポイント
バッテリーラインは、通常ラインと比べて電力管理が重要です。
以下のような監視体制を構築しましょう。
- バッテリー残量・温度・充電状態の可視化
- 制御盤に停電警告アラートの表示
- ネットワーク経由でスマホやPCから遠隔監視
最近では、IoTゲートウェイと連携してクラウドにデータをアップロードし、異常があればメール通知する仕組みも一般化しています。
まとめ:止まらない生産のための備え
バッテリー駆動ラインは、単なる「非常用電源」ではなく、生産活動を止めないための能動的な仕組みです。BCP対策や災害対応を考える上でも有効であり、小規模ラインから段階的に導入することが可能です。
商用電源に依存しない、強靭なライン構築は今後のスマートファクトリーに不可欠な要素となるでしょう。自社の重要設備から順に、バッテリー駆動への対応を検討してみてはいかがでしょうか。