メーカーを跨ぐ設備統合と自動化設計の落とし穴

事例紹介

工場の自動化を進める上で、最も多い現実的な課題のひとつが「異なるメーカーの設備統合」です。現場にはすでに導入済みの古い機械や、新たに導入した最新の設備が混在しており、それらを一つの自動化ラインとして制御・管理しようとすると、想像以上の苦労が待ち受けています。

本記事では、複数メーカーの設備を統合しながら自動化を設計する際に起こりがちな“落とし穴”と、それを回避するための基本的な考え方を、初心者にもわかりやすく解説します。

よくある落とし穴①:通信プロトコルの不一致

異なるメーカーの装置は、使用している通信方式やプロトコルがバラバラであることが多く、統一的な制御が難しくなります。

例:

  • A社のPLCはEthernet/IP、B社のロボットはPROFINET、C社のセンサーはModbus TCP

こうした状況では、すべての機器を一括制御するためのプロトコル変換器(ゲートウェイ)が必要になりますが、リアルタイム性やデータの正確性に問題が出ることもあります。

よくある落とし穴②:設備仕様や命令体系の違い

同じ「スタート」や「停止」の命令でも、メーカーごとに信号の扱いや応答仕様が異なることがあります。

  • A社は「信号ON」で起動、B社は「パルス入力」で起動
  • フェイルセーフの考え方も機種によってバラバラ

こうした違いを見落としたまま設計を進めると、制御盤やプログラムでの“手直し地獄”に陥ってしまいます。

よくある落とし穴③:保守や更新時の非互換性

システム統合後、どれか1台の装置を更新しようとした際、「新機種が旧システムに対応していない」「専用ドライバが別料金」などの問題が発生します。

このような状況では、

  • 機器1台の交換に全体の制御変更が必要になる
  • 予期せぬダウンタイムや追加コストが発生

といったリスクが生まれます。

失敗しないためのポイント①:共通インターフェースの設計

異なるメーカーの設備をつなぐ際は、最初から共通のインターフェースレイヤーを設ける設計が理想です。

方法例:

  • OPC UA や MQTT など、メーカーを問わない汎用プロトコルを採用
  • 上位システムで一元的に制御し、各装置とは変換を介して接続
  • PLC間通信ではなく、SCADAなどを中継して情報連携

これにより、個別の制御仕様の違いを吸収し、将来的な拡張・保守性が格段に向上します。

失敗しないためのポイント②:制御仕様の明文化と共有

すべての設備に対して、「どう制御するか」「どんな信号をやり取りするか」を明文化し、統一的な仕様書として管理することが重要です。

  • 起動条件やインターロックの定義
  • 異常時の動作と復旧方法
  • ステータス信号の内容とタイミング

これを行うことで、設計者や保守担当が代わっても、システムの理解がスムーズになります。

失敗しないためのポイント③:ベンダー任せにしない設計視点

異なるメーカーの設備を扱う場合、ベンダー同士で責任を押し付け合いがちになります。

「ロボット側の信号が変だ」
「PLCが受け取っていないだけでは?」
「制御盤側の配線が怪しい」

といったトラブルが起きたとき、責任の所在が不明確なまま時間だけが過ぎていきます。

そのためにも、システム全体を俯瞰できる設計者(またはSIer)を配置し、統合設計に主体的に関わることが成功の鍵となります。

まとめ:統合は「見た目」以上に深い

異なるメーカーの設備を統合して自動化を図ることは、コスト削減や柔軟なシステム構築において非常に有効ですが、その設計には見えない落とし穴が多く存在します。

通信、制御仕様、保守性といった“目に見えない部分”にこそ意識を向け、長期的な視点で設計・導入することが、安定稼働と将来的な拡張を支える鍵となります。

一度構築したシステムは数年〜10年と使い続けることになります。だからこそ、統合時の設計段階でしっかりと準備し、あとのトラブルを未然に防ぐことが求められるのです。

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