愛知県にあるA町の小さな金属加工工場。従業員わずか8名のこの町工場は、数年前まで慢性的な赤字、技術者の高齢化、新規受注の激減に悩まされていました。
三代目社長が口にしたのは「あと1年、このままだと廃業も考えざるを得ない」という切実な言葉。
そこから始まったのが、“自動化”という新たな挑戦でした。
「自動化なんてうちには無理」と思っていた
最初は社内の多くが反対しました。
- 専門の技術者がいない
- コストが高すぎて導入できない
- 長年の勘と経験が通用しなくなるのでは
しかし社長は、町工場だからこそ変化しなければ生き残れないと信じ、地元の支援機関や商工会議所、IT導入補助金を活用しながら、低コストで始められる“部分自動化”を決断します。
第一歩は「単純な作業」の見直しから
最初に自動化したのは、「毎日繰り返す穴あけ加工」の工程。
- 決まった位置に金属板を置く
- 穴あけ機でボタンを押す
- 取り出して箱に入れる
この単純な作業を自動化することで、1日4時間かけていた作業が1時間に短縮。
手が空いた作業者は、より高度な組立や検品に集中できるようになりました。
古い機械と新しい技術の“橋渡し”
既存の古い設備にも、センサーやPLC制御を追加することで、“古いけど賢い機械”へと変化させました。
- モーターの動作ログを自動で取得
- 異常振動をセンサーで検知し、早期アラート
- 加工実績をクラウド上に自動記録
これにより、設備の状態把握が格段に進み、「突然壊れて止まる」ことが激減。
設備保全の負担も軽くなりました。
デジタルで“職人の技”を引き継ぐ
長年現場を支えてきたベテラン技術者が持つノウハウを、動画やデータで蓄積。
新人が作業する際は、作業指示と過去の記録が画面に表示される仕組みに。
これにより、“見て覚えろ”から“見える教育”へと進化しました。
V字回復を実現した5つのポイント
「全自動化」ではなく「段階的な自動化」
一気にすべてを変えるのではなく、できるところから少しずつ。
公的支援を活用
補助金や専門家の支援で、初期投資の負担を軽減。
現場の声を反映した仕組みづくり
導入した装置は、作業者が使いやすいように現場主導で改良。
成果を「見える化」
稼働率、作業時間の変化を数字で確認。社内に成功体験を共有。
“デジタルで人を活かす”意識
自動化は“人を減らす”ものではなく、“人の価値を引き出す”手段として導入。
導入後の変化と現在
現在この町工場では、月の稼働率が前年比150%に向上。
離職率も大きく改善し、新卒採用にも成功。他県からの受注も増え、「廃業寸前」から「地域のモデル工場」へと大きく飛躍を遂げました。
まとめ:自動化は“町工場を諦めない”手段
自動化は、決して大企業だけのものではありません。
町工場こそ、柔軟さと現場の知恵を活かして“賢く小さく始める”ことで、確実に成果を出せます。
「人が少ないから」「資金がないから」「技術者がいないから」──
そう思っていたその工場が、今では自動化の成功事例となっているのです。
未来を諦めず、小さな一歩を踏み出した町工場のように、あなたの現場も「V字回復」を描けるかもしれません。