エマージェンシーストップの“使われ方”を想定した設計法

事例紹介

工場の自動化設備に欠かせない安全装置のひとつが「エマージェンシーストップ(非常停止ボタン)」です。緊急時に人や設備を守るためのものですが、実際の現場では“緊急”でない場面でも頻繁に押されていることがあります。

この記事では、初心者の方にもわかりやすく、非常停止ボタンの“現場での使われ方”を想定しながら、安全かつ実用的な設計を行うためのポイントを解説します。

そもそもエマージェンシーストップとは?

非常停止とは、装置やラインに異常や危険が発生した際、即座に動作を停止させるための仕組みです。JISやISOの規格でも定義されており、一般的には「赤いキノコ型の押しボタン」が使われます。

ただし、“非常”の定義はあいまいで、作業者によっては以下のような理由で押されることもあります。

  • 部品が詰まった
  • 作業員がつまずいた
  • 搬送物が逸れた
  • ラインを一時的に止めたい

つまり、設計者が想定する「本当に危険な瞬間」だけでなく、「ちょっとした異常」にも使われる現実があります。

“実際に使われる”非常停止の設計ポイント

手が届く場所に設置する

工場内では「ボタンの存在には気づいているが、そこまで行けない」という声もあります。以下のような工夫が有効です。

  • 立ち位置ごとにエリア内に1つは配置
  • 作業姿勢(立ち・座り・屈み)を考慮して配置高さを調整
  • 左右どちらの手でも押せる位置

押しやすい、でも誤操作しにくい

エマストは“即押しできる”ことが重要ですが、同時に“誤って押されない”工夫も必要です。

例:

  • ボタンの周囲に保護リングをつける
  • 膝や肘での接触でも反応しないように配置
  • 逆に意識的に蹴って押すことができる足元エマストも有効

復旧操作を意識した設計に

一度エマストを押すと、復旧操作(リセット)が必要です。このリセットの場所や方法が不明瞭だと、生産の遅れにつながります。

  • 押し込み→引き戻し式なら、視認性の高い戻しマーク
  • リセットスイッチを別に設ける場合は、ラベルとランプで誘導

“緊急”を想定した電気設計

制御回路の設計でも、非常停止が確実に機能する構成にすることが求められます。

  • 電源遮断が主電源ではなく制御電源(24V系)で行われていないか
  • NC接点が開いた際に、すべての動力回路が停止するか
  • 自己保持回路が、エマスト解除後も再起動しない構成になっているか

安全リレーや二重回路による冗長化も検討されると安心です。

運用面での工夫もセットで考える

「設置して終わり」ではなく、現場での運用も非常停止の一部です。

  • 定期的なテスト押しのルール作成
  • 押された理由を記録する簡易チェックシート
  • 押した後の復旧手順を作業標準書に明記

押された“回数”ではなく、“内容”を確認することで、改善点が見えてきます。

まとめ:「非常」だけではなく「日常」も想定する

非常停止ボタンは、緊急時に命や設備を守る大切な装置ですが、現場では日常的に使用されているのが実態です。そのため、設計段階から“どう押されるか”“誰が戻すか”を想定することで、より実用的かつ安全なシステムが構築できます。

エマストは“最後の砦”であると同時に、“よく使われる操作スイッチ”でもあるのです。

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