印刷業界では、デジタル印刷やオンデマンド印刷の普及により、短納期・小ロットへの対応力がますます求められています。その中でも製本・印刷後加工の現場は、従来から人の手に頼る部分が多く、自動化が遅れていた分野のひとつです。
しかし近年、工程ごとの細かな自動化や、複数装置を統合したライン化により、大きな成果を上げている企業も現れています。この記事では、ある印刷会社の製本・後加工工程での自動化成功ストーリーを通じて、その背景と工夫を初心者向けにわかりやすく解説します。
製本・後加工とは?
印刷物が完成した後に行われる工程を総称して「後加工」と呼びます。具体的には以下のような作業があります:
- 折り加工(中綴じ・二つ折りなど)
- 丁合い(ページ順に並べる)
- 綴じ加工(針金、糊、無線綴じなど)
- 断裁(仕上がりサイズにカット)
- ラミネート、型抜き、表紙貼り付け
これらの工程は人手作業の比率が高く、機械操作に経験が必要なことから、長らく“自動化しにくい領域”とされてきました。
自動化導入の背景:課題と目的
東京都内にあるある中堅印刷会社では、以下のような課題を抱えていました:
● 主な課題
- 小ロット・短納期案件が増加し、段取り回数が急増
- 熟練オペレーターの高齢化と後継者不足
- 作業の属人化により、ミスや納期遅延が発生しやすい
これらを踏まえ、「多品種対応できる後加工の自動化」を目的にプロジェクトがスタートしました。
自動化成功のステップと工夫
■ STEP1:中綴じ製本ラインの自動化
以前は、用紙の折り、針金綴じ、断裁までをそれぞれの機械で行っていましたが、一貫処理できるライン型の中綴じ機を導入。
工夫ポイント:
- ジョガー(紙そろえ装置)とカメラを連携し、向き・重なりミスを事前検知
- QRコードで案件ごとの設定自動呼び出し
効果:
- 作業者1人で操作可能に(従来は3人)
- 設定切り替え時間が5分→30秒に短縮
- ミスによる手直し率がほぼゼロに
■ STEP2:無線綴じ機の段取り自動化
従来は作業者が紙厚に応じて背幅・糊付け圧力などを手調整していた工程を、自動測定・調整機構付きの無線綴じ機に刷新。
工夫ポイント:
- ペーパーフィーダーに厚みセンサーを組み込み、冊子ごとに最適設定を自動反映
- 加圧ローラーにエラー検知機能を追加し、糊切れを防止
効果:
- 熟練不要で均一品質を実現
- 操作時間が大幅削減され、1日10案件から15案件に増加
■ STEP3:丁合・断裁・梱包の一括自動処理
最も人手が必要だったページの丁合・確認・断裁・結束までを、自動搬送+画像認識+ロボットで統合処理。
独自の工夫:
- AI画像認識でページの向き・印刷ズレ・混入をリアルタイム検出
- 結束ロボットは案件ごとの縛り方・方向を自動で切り替え
効果:
- 梱包済出荷品のミスが年間100件→3件に激減
- 労働時間あたりの処理量が約2倍に向上
自動化導入による全体的な成果
項目 | 導入前 | 導入後 |
---|---|---|
1日あたりの処理案件数 | 約25件 | 約40件 |
後加工に必要な作業者数 | 7名 | 3〜4名(繁忙期以外) |
クレーム件数(印刷ミス・綴じ間違い) | 月平均15件 | 月平均2件未満 |
段取り時間合計 | 1日あたり4時間 | 約1時間に短縮 |
さらに、オペレーターの心理的負担の軽減や、職場の安全性向上という副次的なメリットも報告されています。
導入を成功させるためのポイント
● 1. すべてを自動化しない
機械任せにしすぎると、トラブル対応やメンテナンスが困難になるため、「人とロボットの適切な分担」が重要です。
● 2. 小さな改善を積み重ねる
一度に全自動ラインを導入するのではなく、一工程ずつテスト導入→評価→展開の流れが有効です。
● 3. 作業者の声を活かす
現場のオペレーターの「ここが面倒」「この工程が難しい」といった声をヒントにして自動化対象を決定することで、より高い効果が得られます。
今後の展望
製本・後加工の現場は、人の手と目による品質確認が必要とされる分野ですが、AI・センサー技術の進化により、以下のような可能性が見えてきています:
- 個別冊子ごとの加工履歴の記録とトレーサビリティ
- 異常予兆を学習するAIによる事前保全
- 小ロット・バリアブル印刷に完全対応する自動加工ラインの普及
今後は、さらに柔軟で、“人の技術を支える自動化”が鍵となるでしょう。
まとめ
製本・印刷後加工は「最後の砦」とも言える重要工程でありながら、これまで自動化が進みにくかった分野でした。
しかし、現場の課題を見極め、段階的に設備投資と仕組みづくりを行うことで、人的ミスの削減・納期短縮・労働環境の改善といった多くの成果を生み出すことが可能です。
これからの印刷業界に求められるのは、品質とスピードを両立させながら、人にもやさしい自動化を実現する取り組みです。製本や後加工の現場にこそ、自動化による変革の可能性が広がっています。