機械工具業界におけるセル生産と自動化の融合事例

事例紹介

機械工具業界では、多品種少量生産や短納期対応が求められる中、効率的な生産方式として「セル生産方式」が注目されてきました。従来の流れ作業とは異なり、作業者が一人で複数の工程を担当し、柔軟に対応するのが特徴です。

一方で、自動化の進展により、人手を補助・代替する設備やロボットの導入も広がりつつあります。そこで重要になるのが、「セル生産」と「自動化」の融合です。これにより、従来の属人的なノウハウを活かしつつ、生産性や品質の向上が可能となります。

この記事では、機械工具業界におけるセル生産と自動化の融合事例を紹介しながら、その導入メリットと工夫点を初心者にもわかりやすく解説します。


セル生産方式とは?

セル生産とは、ひとりまたは少人数の作業者が、ひとつのユニット(セル)内で複数の工程を行う生産方式です。

● 特徴

  • 作業者が製品の加工から組立・検査までを担当
  • 柔軟な工程切り替えが可能
  • 工程間の仕掛かり品(中間在庫)が少ない
  • 作業者のモチベーションや品質意識が高まりやすい

セル生産は多品種対応に強い一方で、「作業者の熟練度や負荷に依存しやすい」という課題があります。


自動化の取り入れ方:属人性の低減と作業支援

セル生産に自動化を融合させることで、以下のような課題が解決できます。

課題自動化による対応策
作業者による品質ばらつき画像検査やトルクセンサーによる自動判定
部品の供給・搬送の手間AGVやコンベアによる無人搬送
工程記録の手書き作業タッチパネル入力やバーコード読取で自動記録
工具やネジの取り違えピッキングライトや音声ガイドで誤操作防止

導入事例:中堅機械工具メーカーの融合プロジェクト

対象製品:切削工具用のホルダーやチャックの組立工程
従来方式:3人1チームのセル生産(作業者が治具・締付・検査を一貫担当)


■ ステップ1:トルク管理の自動化

背景: 作業者によってネジ締めの強さにばらつきがあり、不良品の原因に。

導入内容:

  • 電動トルクレンチを導入し、設定値で自動停止する機能を活用
  • 締付けトルクと日付を製品IDと連携して自動記録

効果:

  • 品質の安定とトレーサビリティ強化
  • 手書き記録が不要になり、作業時間を1製品あたり20秒削減

■ ステップ2:AGVによる部品供給

背景: 各セルに部品を配布する作業に1人がかかりきりになっていた。

導入内容:

  • セル間の通路に小型AGV(無人搬送車)を導入
  • 部品トレイにRFIDタグを取り付けて、行き先セルを自動判断

効果:

  • 部品供給にかかる工数が1日あたり2時間削減
  • 作業者は本来の作業に集中できるように

■ ステップ3:画像検査の自動化

背景: 組立後の外観検査を人が目視で行っており、ミスや再検査が発生していた。

導入内容:

  • 高解像度カメラと照明を導入し、組立方向・パーツの浮き・傷の有無を自動判定
  • 検査結果をリアルタイムに表示・記録

効果:

  • 検査時間が1製品あたり30秒→10秒に短縮
  • 検査ミスがほぼゼロに

成果まとめ

導入項目主な効果
電動トルクレンチ品質ばらつき低減、記録工数削減
AGV搬送補助作業の省力化、作業集中度UP
画像検査ミス削減、検査時間の大幅短縮

結果として、1セルあたりの処理能力が従来比で約130%に向上し、人員を増やさずに出荷量の拡大が可能となりました。


現場が意識すべきポイント

● 自動化ありきにしない

セル生産では、人の判断や動作の柔軟性が強みです。すべてを自動化するのではなく、「人を支援する補助として自動化を使う」という視点が重要です。

● 作業者の意見を取り入れる

自動化設備は「使いにくい」と形だけになってしまうケースも多いため、設計段階から作業者を巻き込むことが成功のカギとなります。

● 標準作業の明確化と教育

自動化によって“見える化”された情報を活用し、標準作業や教育マニュアルの整備にも取り組むことが、継続的な改善につながります。


今後の展望

機械工具業界では、今後さらに以下のような融合が期待されます:

  • セル内ロボット(協働ロボット)によるピッキング支援
  • 生産状況のリアルタイムモニタリングによる作業バランス調整
  • 作業履歴と品質データのAI分析による不良要因の早期発見

このように、セル生産と自動化を組み合わせることで、“個人の力”と“技術の力”が調和した生産現場が実現できます。


まとめ

セル生産方式は、多品種小ロットに対応できる柔軟性と、人の感覚や工夫を活かせる生産方式です。そこに自動化技術を融合することで、品質・効率・安定性のすべてを高めることが可能になります

重要なのは、“自動化か、人か”という二択ではなく、「人の強みを活かす自動化」という視点で取り組むこと。機械工具業界においても、そのような融合の試みが、持続可能で競争力のある現場を生み出しています。

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