工場の自動化ラインでは、時に突発的なトラブルや設備の停止が発生します。その都度、現場では原因を調べて再発防止に取り組むものの、「なぜ止まったのかよくわからない」「再現できない」という状況に悩まされることも多いのが実情です。
そこで今、注目されているのが“自動原因ログ記録”の仕組みです。
トラブル発生時に、センサや制御装置の状態を自動で記録・蓄積することで、「再発防止のための証拠」が確実に残せるようになります。
なぜ“ログ記録”が重要なのか?
製造ラインのトラブル対応では、以下のような問題がよく起こります。
- 停止時の状態が再現できない
- 作業員の報告だけでは情報が不足している
- 何が原因か分からず対策が後手になる
これらを防ぐためには、“トラブルが発生した瞬間”のデータを正確に残す必要があります。それを担うのが、各種センサやPLCからの自動ログ記録の仕組みです。
自動原因ログの仕組みとは?
トラブル発生時に自動的に「いつ・どこで・何が起きたか」を記録するシステムは、以下のように構成されます。
トリガー条件の設定
「ライン停止」「センサエラー」「非常停止押下」など、ログ記録を開始する条件をPLCやSCADAに設定します。
ログ対象のデータ選定
以下のようなデータを記録対象とすることが一般的です。
- センサ値(位置・温度・圧力など)
- PLCのステップ番号・アラームコード
- 作業員の操作ログ(ボタン・画面遷移)
- 装置間通信のログ(シリアル/Ethernet)
過去バッファ+トリガー後記録
トリガーの5秒前から10秒後まで、一定時間のデータをバッファ記録し、CSVファイルやデータベースに保存します。
導入事例①:組立ラインの停止原因を特定
某精密機器メーカーでは、月に数回発生する“突発停止”の原因が不明で、改善が進まない状態でした。そこで以下の仕組みを導入。
- 停止信号が出た瞬間に、直前10秒間のPLC内部状態とI/O値をCSV記録
- 作業員の操作もHMI側で履歴を保存
結果、「実は前工程のセンサ故障が影響していた」ことが判明し、交換頻度と点検タイミングを見直すことで停止が激減しました。
導入事例②:ロボットの挙動不良を映像記録
産業ロボットの突然の動作停止に関して、原因が分からないトラブルが頻発。センサログとあわせて「現場映像」をトリガー連動で保存するシステムを導入したところ、
- 作業員が治具の設置を誤っていた
- ロボットが検知して自動停止していた
という人的要因が明らかになり、作業訓練マニュアルを修正することで改善につながりました。
ログ記録で注意すべきポイント
- 常時記録 vs トリガー記録: 全てを記録すると容量が膨大になるため、トリガー方式が現実的
- 保存形式: CSV・SQLite・クラウド連携など、分析しやすい形式を選定
- プライバシーと情報漏えい対策: 操作ログや映像には社内ルールの整備が必要
ログの活用方法
- トラブル解析会議での活用
- 再発防止マニュアルの作成材料
- 定期的な傾向分析と異常予兆検知
「いつ、どこで、何が起きたか」が残っていれば、対策もスピーディーに行えます。
まとめ:データが“現場の記憶”になる
トラブルが起きるのは避けられなくても、再発を防ぐことは可能です。そのためには、“記憶”に頼らず“記録”に残す仕組みが必要です。
自動原因ログ記録は、現場の知見を蓄積し、誰でも同じレベルで判断・対応できる環境を整える第一歩です。