製造現場では、設備の稼働ログ、品質データ、生産数の記録、画像検査の履歴など、膨大なデータが日々生成されています。これらのデータは、現場改善の根拠であり、品質保証の証拠でもあります。
しかし近年では、情報漏えいやサイバー攻撃のリスクが高まり、単に「保存する」だけでなく、「安全に保管する」ことが重要視されています。
本記事では、製造データの暗号化保存と復旧体制の整備について、初心者の方にもわかりやすく解説します。
なぜ暗号化が必要なのか?
製造現場のデータには、以下のような機密性の高い情報が含まれています。
- 顧客から受託した製品設計情報
- 検査履歴や不良品データ
- 出荷前の生産数量記録
これらが漏えいすると、信頼の失墜、取引停止、場合によっては損害賠償に発展する恐れがあります。外部からの攻撃や内部からの不正に備え、保存データを“暗号化”することが最低限の対策となります。
製造データの主な保存先
製造業では、以下のような保存方法がよく使われています。
- PLCや工作機械内の内部メモリ: 作業中の短期データ
- 産業用PCやサーバー: ログ記録、画像保存
- NAS(ネットワークストレージ): 検査・測定データの共有
- クラウドサービス: 多拠点一括管理・遠隔アクセス
いずれも、セキュリティ対策を講じないと、外部アクセスや内部不正によって改ざんや漏えいのリスクが発生します。
暗号化の基本と実装方法
暗号化とは、保存するデータに対して「読めない状態」を施すことで、盗まれても中身を解読できないようにする仕組みです。
保存時の暗号化(AESなど)
ファイル保存時に自動で暗号化を行う仕組みです。代表的な方式にはAES(Advanced Encryption Standard)があります。NASやクラウドでもこの方式を採用している製品が増えています。
通信時の暗号化(SSL/TLS)
PLCやセンサから収集したデータをクラウドに送信する際には、通信自体をSSL/TLSで暗号化する必要があります。VPNと併用すればより安全です。
ユーザー認証+アクセス制御
暗号化と合わせて「誰がどこまで見られるか」の制御も重要です。社内でも部署ごとにアクセス権を分ける設計が求められます。
復旧体制の整備がデータ価値を守る
データは守るだけでなく、「壊れたときに戻せるか」が非常に重要です。復旧体制が整っていないと、データの消失=製造ライン停止につながります。
自動バックアップの導入
保存先(NASやサーバー)から別のストレージやクラウドへ、毎日定期的に自動バックアップを取る仕組みが理想です。差分バックアップ方式で容量を最適化できます。
バックアップデータも暗号化
バックアップ先も狙われる可能性があるため、暗号化は必須です。外付けHDDやUSBメモリを使用する際も暗号化ソフトを活用しましょう。
復旧手順のマニュアル化
トラブル発生時に復旧までの流れがわからないと、復旧が遅れたり人的ミスが発生します。あらかじめ手順書を作成し、実機で復旧訓練を行っておくことが重要です。
導入事例:精密部品メーカーのケース
- 設備のログデータをNASに保存 → AES256で自動暗号化
- バックアップは夜間にクラウドへ自動送信
- 災害時の想定で、週1回の復旧テストを実施
この体制により、数年前のランサムウェア感染時にも被害ゼロで復旧が完了したという実績があります。
まとめ:暗号化+復旧で“失わない”工場へ
製造現場のデータは「製品の品質」そのものです。その価値を守るためには、「暗号化で盗まれないようにする」「バックアップで失わないようにする」2つの軸が欠かせません。
セキュリティと信頼性を高めるために、まずは保存先の見直しと簡易的なバックアップから始めてみましょう。