工場自動化が進む中で、「この仕組み、他の拠点にも展開できないか?」という声が多くなってきました。
現場で効果を上げた取り組みは、そのまま横展開すればすべての工場の利益につながります。
しかし、実際には「A工場では成功したが、B工場では使えなかった」ということも多々あります。
この記事では、グループ工場全体で自動化をスムーズに水平展開するための「設計思想」について、初心者にもわかりやすく解説します。
“水平展開型自動化”とは何か?
水平展開型自動化とは、1つの拠点で得られた自動化の知見や仕組みを、他の工場でも活用できるように設計・展開するアプローチです。
ポイントは以下の3つ。
- 再利用性の高い仕組みにする
- 拠点ごとの差異を吸収できる柔軟性を持たせる
- 展開にかかる工数・コストを最小限にする
単なる「コピー」ではなく、「どこでも使える形に設計する」ことが重要です。
なぜ水平展開が難しいのか?
現実には、同じ会社の工場であっても、設備や人材、運用ルールが異なるため、成功事例をそのままコピーしてもうまくいかないケースが多くあります。
主な課題:
- 工場ごとの設備仕様の違い(PLCメーカー、ライン構成)
- 作業者スキルのばらつき(操作できる範囲、保全対応力)
- ローカルルール・帳票様式の差(チェック項目や記録様式)
- 拠点ごとの予算・稼働率(導入可能タイミングの違い)
だからこそ、「展開できるように設計する」という視点が求められるのです。
“展開を前提にした”設計思想5つのポイント
① モジュール化する
設備やソフトウェアを「部品」単位で設計し、拠点ごとの必要性に応じて組み合わせを変えられる構成にします。
例:搬送部、検査部、排出部などをユニット化して再利用しやすくする
② インターフェースを統一する
I/Oや通信規格、操作画面の構成など、他拠点でも扱いやすい標準を意識して設計します。
例:PLCの信号定義、HMIのレイアウトを共通化する
③ データベースを中央管理できるようにする
各工場の生産実績やトラブル履歴を、クラウドやVPN経由で本部側が集約・分析できるようにします。
例:各拠点の稼働ログや改善情報を共有しやすくする体制
④ 教育コンテンツを共通化する
操作マニュアルや動画、チェックリストなどを全工場向けに汎用化することで、展開のたびに教育内容を作り直す手間が省けます。
例:e-learning形式の標準操作教育プログラム
⑤ フィードバックループを組み込む
導入後も各工場のフィードバックを定期的に回収し、仕様を随時アップデートする体制を作っておきます。
これにより、「展開された側が改善の起点になる」仕組みが生まれます。
導入事例:部品メーカーA社の成功モデル
A社では、国内3工場で共通する「ネジ締め工程」に自動化を導入。
最初の拠点で設計した装置を、以下の工夫で他工場にも展開しました。
- ハード構成は共通化し、設置スペースに合わせて搬送部をスライド可能に変更
- 操作画面は3工場のオペレーターが扱えるよう、共通UI+個別チューニング機能を搭載
- トレーニング動画をクラウド共有し、教育コストを70%削減
結果、3拠点とも半年以内に稼働を開始し、展開期間は従来の1/3、費用は1/2に抑えることに成功しました。
まとめ:自動化設計は「拠点横断」で考える時代へ
これからの工場自動化は、「この拠点だけの話」では済まされません。
1つの現場で出た成果を、いかにグループ全体に広げられるかが、コスト効率と競争力の鍵となります。
「どこでも使える仕組み」を意識した設計、
「誰でも扱える操作性」を意識した画面設計、
「いつでも改善できる体制」を意識したフィードバック設計――
それらが揃ってはじめて、真の“水平展開型自動化”が実現するのです。