欧州に学ぶ“人とロボットの共存設計”の知見

ヨーロッパでは、「人とロボットの共存」という概念が早くから重要視されてきました。

単に自動化を進めるだけではなく、人間の安全や作業効率、心理的負担までを考慮した「共存設計」がスタンダードになりつつあります。

こうした動きは、日本の現場にとっても大いに学ぶべき点が多くあります。

共存設計とは何か？

共存設計とは、作業者とロボットが同じ空間で協力しながら業務を行うための環境設計を指します。

従来の工場では、安全確保のためにロボットと人の作業エリアを分ける「囲い込み」が主流でしたが、欧州では“協働ロボット（コボット）”の導入により、人とロボットが接触するリスクを減らしながら同時作業を可能にしています。

ドイツを中心とするEU諸国では、国際安全規格「ISO 10218」や「ISO/TS 15066」に基づく安全設計が義務化されており、物理的な安全対策だけでなく、速度制限や力制御などのソフトウェア的な配慮も徹底されています。

また、作業者の視線・動線・感情にも配慮した設計が進んでおり、「心理的な安全性」にまで踏み込んだ取り組みが注目されています。

共存設計を導入すると、人とロボットがそれぞれの得意分野を活かせるため、生産工程の柔軟性が高まります。

例えば、組立の初期工程はロボットが担当し、最終仕上げは人が行うといった分業体制が構築できます。

これにより、ライン変更時の再設計も最小限に抑えることができます。

囲い込みが不要になることで、ロボットの設置スペースが縮小され、作業エリアをより効率的に使うことができます。

欧州の多くの工場では、限られた敷地内で多品種少量生産を行っているため、スペースの最適活用は競争力に直結します。

完全自動化ではなく、人の判断や器用さを活かしながら、ロボットの安定性とスピードを組み合わせることで、全体の生産性が向上します。

また、高齢者や女性など、多様な人材が安心して働ける現場環境を作ることにもつながります。

日本でも協働ロボットの導入は進んでいますが、依然として囲い込みの文化が根強く、安全性に対する不安がボトルネックになっています。

まずは低速・低荷重のコボットから導入し、現場の理解と安心感を育てることが第一歩です。

また、現場ごとのリスクアセスメントを丁寧に行い、安全設計のノウハウを蓄積することが重要です。

人とロボットが安心して共に働ける現場は、効率だけでなく、人材確保や離職防止にも貢献します。

欧州の共存設計は、単なるハードウェアの選定ではなく、「人中心の現場づくり」という視点から生まれた発想です。

日本でも今後、共存という発想を軸にしたスマートファクトリーの実現が求められる時代が到来しています。