工場における停電は、ライン停止だけでなく、機械の故障やデータ消失、作業者の安全リスクにもつながります。
とくに自動化設備では、予期しない電源断によりロボットが途中停止したり、PLCのデータが破損するなどの問題が発生することも。
その対策として有効なのが、無停電電源装置(UPS)と自動化制御との連携です。
ただUPSを置くだけでなく、“どう連携するか”を考えることで、より安心できる設備が実現します。
UPSとは?基本の仕組み
UPS(Uninterruptible Power Supply)は、停電や瞬時電圧低下が発生した際に、バッテリーで一定時間電力を供給できる装置です。
工場用途では以下のような役割が期待されます。
- PLCや産業用PCのシャットダウン処理までの猶予時間を確保
- 装置の安全停止動作を完了させる
- 通信機器や監視カメラを継続稼働させる
つまり、“止めるために必要な時間”を稼ぐのがUPSの本質です。
UPSと自動化制御の連携パターン
制御盤にUPSを直接組み込む
制御用のPLC、タッチパネル、通信機器、センサの電源ラインにUPSを挿入。
停電時もこれらが継続して動作し、エラー信号やログ記録が可能になります。
UPS信号をPLCで監視
UPSの出力には「停電検知」や「バッテリー容量低下」などの信号を出力できる機種があり、これをPLCに取り込むことで、以下のような自動処理が実現します。
- ライン停止 → セーフティポジションへ移動
- HMIに「UPS動作中」表示
- ログデータの保存・CSV書き出し
クラウド通知との連携
IoTゲートウェイと連携して、UPS動作時にメールやSlack通知を送信する構成も可能です。
管理者が即座に異常を把握し、遠隔対応できるメリットがあります。
よくある連携ミスとその対策
- UPSに“動力系”をつないでしまう
ロボットや大型モーターは消費電力が大きすぎるため、UPS保護対象に含めるのは危険です。 - UPSのバッテリー容量が不足
実際の消費電力とバックアップ時間を正確に見積もりましょう。 - UPSがノイズ源になる
インバータや電源ユニットとの相性でノイズが回り、通信障害を起こす例も。ノイズフィルタや絶縁トランスで対策します。
導入事例:電子部品工場での活用
24時間稼働の電子部品製造ラインでは、落雷による瞬時停電でロボットが停止。
再起動後にホームポジションのズレが頻発していました。
そこで以下の構成を導入。
- PLC・タッチパネル・産業用PCにUPS供給
- UPSの停電検知信号をPLCへ入力
- 「電源断→5秒後に自動停止→ログ保存→送信」処理を追加
結果、落雷時でも停止処理がスムーズに行え、位置ズレ・品質トラブルが激減しました。
UPS選定時のポイント
- ラインインタラクティブ or オンライン方式: 工場用途では電圧変動に強いオンラインUPSが安心
- 停電時に必要な運転時間: 最低5分、できれば10分以上が理想
- バッテリーの寿命と交換容易性: 現場で交換可能なモデルを選ぶ
また、冷却ファンの音やメンテナンス頻度も重要な判断材料になります。
まとめ:UPSは“止めない”ための装置ではなく“安全に止める”ための装置
停電対策というと、設備を「動かし続ける」ことをイメージしがちですが、工場自動化におけるUPSの本質は、「安全に止める」ことにあります。
UPSと自動化制御の連携をしっかり設計することで、トラブル時の被害を最小限に抑え、復旧のスムーズさや信頼性の向上にもつながります。